Cinefil原稿『映画と小説の素敵な関係』
第五回 『幻影師アイゼンハイム』―前編


今から約10年前、2006年の夏に、アメリカで一本の映画が話題を呼びました。
メジャースタジオの作品ではなかったので全米で51館の限定公開であったにも関らず、噂が噂を呼んで口コミが広がってゆき、最終的には1,438館にまで拡大公開され、BOX OFFICE TOP10(全米興行収入トップ10)に入るまでになったのです。

画像: http://rocky-custom-label.at.webry.info/201001/article_2.html

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『The Illusionist』――無名の映画監督がエドワード・ノートン主演で撮った19世紀末のウィーンを舞台にした奇術師の映画であると聞き、その美しく幻想的な宣伝映像の一部を目にした目にした時、私の胸は高鳴りました。私は前時代の「奇術モノ」がとても好きなのです。
ですが、中々日本にやって来ず、2年の歳月が流れ、2008年に漸く日本公開されることになりました。そこでつけられた日本公開タイトル『幻影師アイゼンハイム』――そのタイトルを聞いて、私は狂喜しました。
私の好きなアメリカ文学の作家スティーヴン・ミルハウザーの小説の映画化作品だったのです。
原作は『幻影師、アイゼンハイム』(原題は『Eisenheim the Illusionist』)のタイトルで、短編集『バーナム博物館』に所収され、日本でも既に刊行されていました。
私はミルハウザーの日本で初めて刊行された短編集である『イン・ザ・ペニーアーケード』を読んですっかりミルハウザーの世界に魅了され、次いで刊行されたこの『バーナム博物館』も読んでいたのです。
スティーヴン・ミルハウザーという作家はひとことで言えば、「奇術」あるいは「魔術」、「自動人形」などといった、人々を幻惑させる「からくり」に魅せられている作家で、大半の作品はそういったものを根幹に置いた物語りです。そのような題材、作風から、アメリカでは「最後のロマン主義作家」とも評されている人です。

画像: スティーヴン・ミルハウザー http://mezzanine.s60.xrea.com/millhauser.html

スティーヴン・ミルハウザー

http://mezzanine.s60.xrea.com/millhauser.html


私は全作品読んでいるわけではないのですが、特に『イン・ザ・ペニーアーケード』に収められている表題作『イン・ザ・ペニーアーケード』と、『アウグスト・エッシェンブルク』、そして『バーナム博物館』に収められているこの『幻影師、アイゼンハイム』が大好きな作品だったのです。
ミルハウザー作品が映像化されたというだけで、映画『幻影師アイゼンハイム』への私の期待は大きく高まり、その小説で描かれている「幻影」をどのようなヴィジュアルで作り上げているのか、しかも、アメリカでは口コミで拡大公開されるに至った作品ですから、それが魅力的に視覚化されているのは約束されているようなものだったので、益々楽しみになったのです。
ですが、同時に、原作はわずか30ページ程度の短編ですし、確かに映像として作り上げるだけでも魅力的なものになるのは受けあいと思いましたが、物語りとしては多くの観客を魅了するような物語りとは思えない・・・という考えが湧き上がりました。
つまり、非常に優れたふくれませ方、即ち、巧みな「脚色」が施されているに違いないと感じ取ったのです。
そうしてこれ以上ないほどの期待が高まった中で観たわけですが・・・そこには驚きしか待っていませんでした。原作のファンからしても、「傑作」と呼ぶほかはない映画が、生まれていたのです。
                                  

                                   江面貴亮

The Illusionist [2006] | Trailer

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