まるで打ち上げ花火のように、夜空に流星群を流す。プラネタリウムのようにスクリーンに映し出すのではなく、リアルの夜空に、リアルな流れ星を。そんな新たなエンターテインメントを生み出そうとしている一人の女性がいる。宇宙ベンチャー、株式会社ALE(エール)を率いる岡島礼奈氏。かつて研究者の道を志していた彼女は今、起業家という立場で基礎科学の可能性に賭けている。都内にある同社のオフィスで、話を聞いた。
画像: 岡島礼奈(おかじまれな) 1979年鳥取市生まれ。東京大学理学部天文学科卒、同大学院理学系研究科博士課程天文学専攻修了(理学博士)。ゴールドマン・サックス証券戦略投資部を経て、2009年にコンサルティング会社「エルエス・パートナーズ株式会社」を起業し、日本企業の新興国進出をサポートする。出産を機に同社を退職し、2011年9月に株式会社ALE(エール:東京都港区)を設立、代表取締役に就任。国内の宇宙工学研究者と提携し、人工流れ星によるエンターテインメントビジネスを展開。2019年、世界初の人工流れ星イベントを瀬戸内海上で開催予定。

岡島礼奈(おかじまれな)
1979年鳥取市生まれ。東京大学理学部天文学科卒、同大学院理学系研究科博士課程天文学専攻修了(理学博士)。ゴールドマン・サックス証券戦略投資部を経て、2009年にコンサルティング会社「エルエス・パートナーズ株式会社」を起業し、日本企業の新興国進出をサポートする。出産を機に同社を退職し、2011年9月に株式会社ALE(エール:東京都港区)を設立、代表取締役に就任。国内の宇宙工学研究者と提携し、人工流れ星によるエンターテインメントビジネスを展開。2019年、世界初の人工流れ星イベントを瀬戸内海上で開催予定。

人工衛星から粒を放出する

――はじめに、人工流れ星のしくみを教えてください。

岡島
まず、人工衛星に粒を詰め込んでロケットに搭載し、宇宙空間に打ち上げます。その人工衛星が地球の周りを回りながら粒を放出します。放出された粒は、地球の周りを約1/3周してから上空60~80キロメートルの大気圏に突入し、燃えます。それが、地上からは流れ星として人の目に見えるのです。天然の流れ星も大気圏に宇宙のチリが突っ込んできて燃えるものです。それを人工的に作り出そうというのが、弊社のミッションになっています。2019年に広島県の瀬戸内海上での実現をめざし、準備を進めています。

画像1: ALE_SkyCanvas vimeo.com

ALE_SkyCanvas

vimeo.com

――宇宙に放出する粒の大きさはどのくらいですか。

岡島
今のところ、直径1センチくらいにしようと考えています。こちらが開発中のサンプルです。重さは素材次第ですが、数グラムになると思います。

画像: 人工衛星から粒を放出する

――粒に使う素材はもう決まっているのですか。

岡島
まだ検討中の段階で、今、金属の素材を当たっているところです。流れ星を明るくするためにはこの素材でなければいけない、といった候補はいくつか絞れています。

――人工流れ星が人の目に見えている時、粒はどのくらいの速さで流れるのでしょう。

岡島
1秒間に8キロメートルの速さで流れます。天然の流れ星ですと速いもので毎秒100キロメートル、遅いものでも毎秒十数キロメートルの速さで流れるので目に見えるのは「ヒュッ」と一瞬ですが、わたしたちの流れ星はもう少しゆっくりしていて、「スーッ」と流れていくイメージ。ですから、地上から見て、天然のものとの区別はつくと思います。

人生を決した一冊の本

――そもそも人工流れ星を考えついたきっかけは何だったのですか。

岡島
大学3年生だった2001年に天文学科の同期と見た、しし座流星群です。ちょうど33年に1回来るピークがその時で、もう本当にすごくて。火球(かきゅう)と呼ばれる、赤くて非常に明るい流れ星がいくつも流れていました。実はそれが人生で初めて見た流星群だったので、「これが流星群か!」と感動したのと同時に、その場にいた友人たちと「原理としては小さな粒が大気圏に突入して燃えるわけだから、作れるよね」と話をしたのがきっかけですね。

――流れ星を見て「作れる」と発想すること自体が珍しいと思うのですが、もともと、ものを作るのが好きだったわけではないのですか。

岡島
ものづくりは全然できないほうなんです。手先も器用ではないですし。

わたしが強く興味を持ったのは、宇宙のしくみです。天文学科に進む人には2パターンあって、天体観測が好きで宇宙に興味を持ったという人と、わたしのように宇宙論や相対性理論といった物理学への興味から入る人に分かれます。なので、わたしはいまだに星座のことはよく知らないのです (笑)

――意外です。物理学に興味を持たれたのはなぜですか。

岡島
中学生の頃に、当時ベストセラーになった「ホーキング、宇宙を語る」という本を読んで。宇宙はどうやってできたのか、ブラックホールはどうやってできたのか、タイムマシンは実現可能なのかといったことが書かれていて…読んでいて、自分の想像を超えるじゃないですか。そこから、空を見て「どれがブラックホールなんだろう」なんて考えるのがどんどん楽しくなってきて。それで天文学科のある大学に入り、研究者をめざして大学院の博士課程まで進みました。でも、最終的には研究職ではなく企業への就職を選んで、2008年に外資系の証券会社に入りました。

基礎科学研究に、新たな資金の流れを

――証券会社とは、天文学とはまったく畑違いの業界に進まれたのですね。なぜ研究者の道を選ばなかったのですか。

岡島
周りの学生がみんなすごく優秀で、わたしは研究者に向いていないなと感じるようになっていました。それでも天文学をはじめとする基礎科学の分野はすごく好きだったので、研究者とは別の形で自分が役に立てることはないかと考えたのです。

一言で言うと、天文学って“お金をかけたもん勝ち”なんです。お金をかけて高性能の望遠鏡を造れば、より遠くの星まで見えて、より価値のある発見ができる。ただ、基礎科学研究の資金のほとんどは公的なものなので、その時々の国策にかなり左右されてしまい、安定して資金を得ることが難しい。それとは違う資金を基礎科学の研究に調達できるしくみを作れないかな…そう考えて就職先に選んだのが証券会社でした。リーマンショックの影響で2009年にその会社を退職したのですが、いつか人工流れ星を実現したいという思いは勤めている間もずっと持ち続けていました。

画像: 基礎科学研究に、新たな資金の流れを

投資家に最も強く伝えていること

――ALEを起業されたのは2011年ですが、資金はどうやって集められたのですか。

岡島
それが、すごくラッキーなことに、証券会社時代の上司がとても協力的で。退職した時に「次は人工流れ星をやろうと思ってるんです」という話をしたら「事業計画ができたら持っておいで」と言われました。その後、ALEの起業を決めた時に事業計画を持参して資金調達の相談をしたら、「この人とこの人に頼んでみなさい」と個人投資家を何人か紹介してくれて。その方々の元に何度か足を運んでプレゼンをする、ということを重ねて資金を集めました。

――投資家へのプレゼンでは、どんなことに重点を置いて話されるのですか。

岡島
まず、「人工流れ星とは宇宙エンターテインメントであること」。同時に、「科学の進歩にも役立つこと」。わたしがやりたいのは、あくまでエンタメとサイエンスの両立です。エンタメとしてプロフィットを得ながら、基礎科学の発展に貢献したい。実際のところ、投資家の皆さんがわたしのプレゼンのどこに共感されたのかはわからないのですが、流れ星を人工で流すということ自体が面白いので、皆さん話に乗ってくださっているのかなとも思います。

――実現されれば、世界初の人工流れ星ということになるのですか。

岡島
エンタメ利用としては、世界初だと思います。ただ、1970年代にはアメリカが科学実験として針を宇宙空間にばらまいて流星群のようなものを発生させたことがありました。また、スペースシャトルから球などを落として、それを地上から観測するという実験も行われていました。ですから厳密には、何か人工物を大気圏で燃やして流れ星のように見せること自体は過去にもあったのですが、我々のように人工衛星を使って、見て楽しむために流れ星を流すという取り組みはこれまでなかったと思います。

社員はビジネスと開発、半々

――ALEの社員はどうやって集められたのですか。

岡島
最初は大学の先生との共同研究という形で始まって、先生のお弟子さんを紹介していただいて開発メンバーになってもらっていました。その後は普通に求人を出したり、人材紹介会社にお願いしたりしてメンバーを集めていきました。

――今、社員は何人ぐらいですか。

岡島
10人ちょっとです。他の宇宙企業ですと社員の8割がテックチーム(開発担当)なのですが、弊社の事業はエンタメと宇宙工学の融合なので、社員はビジネスチームとテックチーム、半分ずつですね。ビジネスチームはプロモーションや営業、資金調達などを担当しています。テックチームはPCでの分析や解析のほか、装置を設計して外部の企業に製作を依頼したり、工作室のようなオフィスで試作や実験をしています。

――人工衛星もALEで開発しているのですか。

岡島
装置周りの開発はほぼすべてALEで行っています。今ようやく人工衛星の設計図面が出来て、これから組み立てるという段階です。流れ星となる粒を放出する装置はほぼ出来ていて、これから振動実験や熱実験を経て完成に至ります。実験は大学の先生方にお手伝いいただいて、例えば粒を1,000発放出した場合にどのくらい速度のバラつきが生じるかといった実験では、データの計測をお願いしています。

画像: オフィスに置かれた人工衛星の模型。大きさは約50センチ角。内部に、流れ星となる粒が仕掛けられる。

オフィスに置かれた人工衛星の模型。大きさは約50センチ角。内部に、流れ星となる粒が仕掛けられる。

――流れ星を模擬的に流すような実験は、どんなところで行っているのですか。

岡島
発光実験ですね。年に1回、一緒に研究している大学の先生が、神奈川県相模原にあるJAXAさんの特殊実験棟を借りて行っています。真空のチャンバー(膨張室)にジェット気流を吹き込んで、人工衛星から放出された粒が大気圏に突入する様子を模擬実験しています。

画像: 流れ星となる粒を放出する装置部分。粒同士が傷つかないようセパレートされている。1回に10~20粒が放出される。

流れ星となる粒を放出する装置部分。粒同士が傷つかないようセパレートされている。1回に10~20粒が放出される。

実は人工流れ星に挑戦したかった人たち

――提携されている大学の先生方の役割分担はどうなっているのですか。

東北大学の桒原(くわはら)聡文先生には人工衛星への電力供給や姿勢の制御を含めた衛星バスシステム開発を、首都大学東京の佐原宏典先生には人工流れ星のシステム全体を、神奈川工科大学の渡部武夫先生には粒の放出などの人工衛星のミッションを、日本大学の阿部新助先生には流れ星の軌道や発光についてお手伝いいただいています。皆さん「面白そう!」ってワクワクしながら協力してくださっています。

――どうやってその先生方とつながったのですか。

岡島
初めに協力してくださったのが首都大の佐原先生で、知り合ったきっかけは人づての紹介です。実際に会って、人工流れ星のビジネスを考えていると話したら「やりがいがありそう! ぜひやってみたい」とのことで、そこから、佐原先生のつながりでまた別の先生を紹介していただく、という流れが多いですね。宇宙界隈ってちょっと狭い業界なので。

――これまで岡島さん以外に、人工流れ星を開発しようとした方はいらっしゃるのですか。

岡島
人工流れ星って、アイデアとしては結構ある話で。今ご協力いただいている日大の阿部先生は、ニュースで我々の取り組みを知って「自分も人工流れ星をやりたいと思っていた」とメールをくださった方ですし、宇宙工学の専門家に話すと「あ、それ考えたことある」「知り合いで同じことを言ってた人がいる」という反応が多いですね。天文や宇宙工学系のプロの間では、そんなに驚かれるようなアイデアではないのです。

肝は、明るさと正確さ

――流れ星を人工的に流すにあたって、技術的に何が一番難しいのですか。

岡島
まずは、いかに明るく輝かせるかですね。流れ星って、流れるスピードが速いほど明るく光るんです。ただ、我々の流れ星はどうしても人工衛星の速さを超えられない。なので、素材で工夫するしかないのです。素材によって光り方が変わってくるので。先日、JAXAの施設で我々が開発したサンプルを燃やしたところ、隕石が燃える場合に比べて70倍くらいの明るさになりました。これは都会の夜空でも視認できる明るさです。

画像: ALEが開発している人工流れ星の明るさレベル。数字は光度を示している。

ALEが開発している人工流れ星の明るさレベル。数字は光度を示している。

――流れ星の色も、素材によって変わるのでしょうか。

岡島
変わります。金属を中心にいろいろな素材を試して、実験室レベルでは青、緑、オレンジを発光できるところまで来ました。

画像: 実験では青、緑、オレンジの発光に成功している。

実験では青、緑、オレンジの発光に成功している。

もうひとつ難しいのは、精度ですね。はじめにお話したように、人工衛星から放出された粒は地球の周りを約1/3周して大気圏に突入するので、その位置が少しでもずれると、例えば東京で流れ星を見せたかったのに実際は北海道で見えてしまった…なんてことが起きてしまいます。放出する時に速度と角度のバラつきが生じないこと、人工衛星自体の姿勢をきちんと制御できていることが必要で、その精度を出すのがかなりチャレンジングでした。今だいぶ精度が上がってきて、いずれも±1%というレベルで制御できています。

「 後編:引っ張らないリーダーシップ」に続く >

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