「『いい会社』への投資」に特化した金融ベンチャー、鎌倉投信株式会社・鎌田恭幸氏へのインタビュー。3回連載の最終回では、鎌倉の古民家を職場にしたねらいを明らかにし、当初予期していなかったそのメリットについても触れる。そして、鎌倉投信にとって顧客である個人投資家たちとの稀有な関係づくりから生まれた新たな動きや、さまざまな経営者と接してきた鎌田氏が得た経営の教訓について語っていただいた。

『第1回:「いい会社」を見極める』はこちら >
『第2回:よろず屋の末っ子がたどり着いた、投資の本質』はこちら >

金融と鎌倉の意外な接点

――鎌倉の古民家で起業した理由は何ですか。

鎌田
自分たちの価値観や立ち位置を伝えやすい場所だからです。

鎌倉には、自然と伝統文化がある。そして、武家社会の出発点であり、日本で初めて環境保護運動が育った革新性に富む土地柄でもあります。古くからあるものを大切にしながら新しいものを生み出していく、そんな力のある場所で会社を興そうという想いがありました。

鎌倉投信の商品「結い 2101(ゆいにいいちぜろいち)」は、2101年すなわち22世紀まで続くファンドを意味しています。その想いを発信する拠点も、金融機関のイメージとしてよくある駅前のビルではなく、100年近く続いている建物にしたかったというのが、本社屋を古民家にした理由です。100年続く家屋は周りの環境とのバランスがとれ、住む人の想いが時代を越えて繋がっている。この建物は築85年以上なのですが、基本的には当時からの部材を活かしています。

画像: インタビューが行われた「花桃(はなもも)の間」。窓から見える花の名前が、各部屋の名称になっている。

インタビューが行われた「花桃(はなもも)の間」。窓から見える花の名前が、各部屋の名称になっている。

――建物の維持が大変ではないですか。

鎌田
大変です。だから、なるべく自分たちで修繕や庭木の手入れをしていますが、正直追いつきません。職場を自分たちの手できれいにすることは、お客さまをもてなす心を養い、お互い助け合いながら自発的に取り組むことで主体性や協調性も高まると思います。仕事環境としては、とても居心地がいいので精神的なストレスがすごく軽減されています。マイナス面としては、やはり古いので冬はすごく寒いですが(笑)。

鎌倉で働くようになって分かったのですが、鎌倉時代が日本にもたらした影響ってすごく大きいんですね。それまでの公家社会から武家社会になったことで、貨幣経済や国家統治の仕方がガラッと変わった。さらに、現在の信用金庫や信用組合という相互扶助型の金融の原形となった、結(ゆい)や頼母子講(たのもしこう)が始まったのも鎌倉時代です。その中心となった土地で、本来あるべき姿の金融事業を起こすことに、大きな意味を感じています。

――投資先企業を見る時にも、社屋や立地場所は重視されますか。

鎌田
観ます。自分たちの地域や考え方を大切にする会社というのは、社屋の造りにそれが出ますよね。また、会社がどの場所にあるかで、業界においてどんな立ち位置をめざすのかも表れますから、場所は結構大事ですね。

フィルターとしての古民家

――金融のお仕事と聞くと、パソコンの画面とにらめっこ…というイメージがあるのですが、運用者の実際はどんな一日なのですか。

鎌田
毎朝9時ごろから市場が開くので、やはり運用者の朝は株価の確認から始まります。運用者が投資先の株価を見て、ポートフォリオ(各投資先への資産配分)を調整します。もちろん、国内外の金融情勢や政治情勢についてもひと通り情報収集します。11時以降は投資先候補の会社を調べたり、経営課題を抱えている既存の投資先に出向いて改善提案をしたりします。お客さま対応の部署では、口座開設の手続きやお客さまの質問への回答などもしています。今、創業者4人を含めて職員15人で業務を行っています。

――投資信託のお仕事で一番嬉しい瞬間はどんな時ですか。

鎌田
お客さまが「投資してよかった」と言ってくださる時ですね。鎌倉投信は「投資のリターン=資産形成×社会形成×心の形成」と定義しています。お客さまのお金をふやすことももちろん大事ですけど、その過程で「いい会社」がふえて社会がよくなり、それに貢献しているという意識をお客さまにも持っていただく。それを実感できた時ですね。

――投資家の参加資格のようなものはあるのですか。

鎌田
鎌倉投信は「公募」投信という形を採っていまして、(日本に住所があれば)年齢・国籍を問わず個人でも法人でも投資いただけるので、基本的には“不特定多数”なのです。実は、営業活動は一切やっていません。電話セールスも広告宣伝もせず、ホームページで説明会の告知をするだけなので、基本的には口コミです。

説明会は全国で年間70~100回開催し、毎回20人くらいの方が参加されます。当社にお越しいただくことで、結果としてお客さまが選別されます。この古い日本家屋を見た瞬間に、わたしたちとは価値観がかけ離れた人、「鎌倉投信に投資したらいくら儲かるんだ」という考えの人は寄ってこなくなるのです。この建物自体がある種の結界というか、フィルターになっています。

画像: 社屋は投資家向け説明会の会場としても使われている。

社屋は投資家向け説明会の会場としても使われている。

投資家の熱に驚く

――お客さまと直接お話しできる機会は多いのですか。

鎌田
運用報告の一環として開催する、年に一度の「受益者総会®*」や一緒に投資先を訪問する「いい会社訪問®*」でお会いします。受益者総会では、投資先の経営者に講演していただき、その商品やサービスの紹介も行っています。また、「いい会社訪問」では商品やサービスの裏側にある人の営みを感じ取っていただくことで、単に株価が上がった下がったではなく、その会社がどんな点を社会から評価されて、お客さまにお金として返ってくるのかという繋がりを実感していただけるのです。

* 「受益者総会」および「いい会社訪問」は、鎌倉投信株式会社の登録商標。

その結果、お客さま自身の行動に変化が起きます。お客さまの8割近くは30~50代で、社会や組織、家庭の中核になっている方たちです。そういった方たちが、ゼロから会社を立ち上げた同世代の経営者のマインドや行動力に触れるわけです。そうすると、「自分も何かできることをやろう」と立ち上がる方が少しずつふえる。会社の中で勉強会を始めたり、ボランティア活動を始めたり、NPOを立ち上げたり。中には、投資先の会社に転職した方もおられます。とにかくものすごい熱量を彼らから感じるのです。

それこそが、鎌倉投信の存在意義だとわたしは思うのです。人々が投資を通じていろいろな会社を知り、いろいろな生き方に学び、自分の生き方や考え方を変えていく。その小さな一歩を踏み出す場所に、鎌倉投信がなりつつある。今、約1万7千人のお客さまがいますが、それが3万人や5万人になってそれぞれが小さな変化を起こしていったら、すごく大きな価値になりますよね。

わたしと同世代のお客さまですと、お子さんを説明会や受益者総会に連れてきて勉強させている方もいます。お金の使い方を考えることが、働き方や生き方を考えるきっかけになりますし、本当にいいものに対しての投資は、人格を磨くと思うのです。お金の使い方で人は変わります。

――お客さまの投資額は平均でどのくらいなのですか。

鎌田
60%のお客さまが月ごとの積立投資で、平均3万円くらいです。でも人数でいうと、月1万円の方が一番多いです。お客さまの20%が投資未経験で、中には学生さんもいます。鎌倉投信は1万円から投資できる小口の投資信託なので、未経験でもやってみたいという方がふえると思いますし、そういう潜在欲求を持った方は世の中にまだまだいるはずです。ただ、一般的な金融機関はまだそこにリーチできていません。

「徳を積む」とは

――鎌田さんの著書『外資金融では出会えなかった日本でいちばん投資したい会社』(アチーブメント出版,2011年)の中で、ある人から「経営者に徳がないと人はついてこない」と言われた、と書かれていました。これは誰の言葉なのですか。

鎌田
スワンベーカリーという、ヤマトホールディングス株式会社の特例子会社で、障碍(がい)者雇用を積極的にやっているパン屋さんがあります。そこの社長だった方にいわれた言葉です。「どうしたら徳を積むことができるのですか?」と聞き返したら、「そんなの簡単だよ。人のために時間を使えばいいんだよ」と。それを聞いて納得しました。実際、名経営者といわれる方ほど社員のために時間を使い、常に1対1の関係を作るよう努めています。

別の切り口でご指導いただいたのが株式会社日本レーザーの社長です。赤字続きだった同社を就任1年目で黒字化した方なのですが、なぜそれができたのかを尋ねたところ「社長にとって笑顔は仕事なんです」と。社長の雰囲気が会社を変えていく。すると社員が近寄りやすくなって、悩みや課題を隠さずに話してくれるようになるから、社員のモチベーションも上がり、会社との関係もよくなり、売上も伸びていく。その方は毎朝、笑顔を作る練習を20分してから出社しておられたそうです。それを聞いて思いました。経営者は言葉、表情、雰囲気、そのすべてを人のために使わなくてはいけないと。「人のために時間を使う」と同義ですよね。そうすると組織がまとまる。

――鎌田さんも、笑顔を作る練習をされているのですか。

鎌田
心掛けていますが、だめです(笑)。やはりどうしても、自分のことで頭がいっぱいになって、難しい顔をしてしまうことはあります。もっともっと人格を磨いていく必要を感じています。

画像: 「徳を積む」とは

100年続く投資信託であるために

――100年続く投資信託を実現するためには、鎌倉投信という会社そのものが100年続かなくてはいけないわけですが、鎌田さんが考える「100年続く企業の条件」は何ですか。

鎌田
まず、経営理念を伝承していくこと。そのためにも鎌倉投信は、独立系の運用会社であり続けることがすごく重要です。大手金融資本が株主に入っていると、考え方がゆがめられてしまいます。それを防ぐために、株主は100%個人の支援者で、3分の2以上は創業者(現経営陣)が持っています。もうひとつが、上場や表面的な拡大をめざさないこと。つまり、事業を持続させることやファンドの質を上げること、お客さまとの関係性をより高めることに注力していく。この2つが、100年続いていくための重要な要素になると思います。その枠組みの中で、いかに人財を育てていくかですね。

会社の根本にあるのは人財だと思います。鎌倉投信は今、創業メンバー4人が作ってきたものをようやく次の世代に繋いでいける段階に入ってきました。ここから10年くらいかけて、組織づくりと人財育成をしていきます。

――会社としての具体的なゴールは設定していますか。

鎌田
やはり、100年続くことです。それが達成されないと、「いい会社」をふやせませんから。いろいろな経営者の考えに触れて思うのは、経営の究極の目的とは、会社に関わるすべての人の幸福の追求だということ。ですから、ゴールはないのかもしれません。会社の土台づくりにおいて「これなら100年続くな」と思える瞬間が来たら、その時がひとつの通過点なのだと思います。

――最後に、鎌田さんが考える投資の本質を教えてください。

鎌田
それはもう、鎌倉投信の投資哲学そのものですね。「投資は“まごころ”であり、金融とは“まごころの循環”である」。自分のお金を使っていいものを応援していく中にこそ、社会、経済、自分の資産形成という意義があるとわたしは信じています。

画像: 鎌田恭幸(かまたやすゆき) 1965年、島根県大田市生まれ。1988年、東京都立大学(現・首都大学東京)法学部卒業。日系、外資系の信託銀行を通じて資産運用業務に携わり、株式運用や運用商品企画、機関投資家向けの年金営業などを担当した。外資系信託銀行の副社長を経て2008年11月、元同僚4人で鎌倉投信株式会社を起業し代表取締役社長に就任。独自の視点で「いい会社」に投資する公募投資信託「結い2101」を運用・販売している。著書に『外資金融では出会えなかった日本でいちばん投資したい会社』(アチーブメント出版,2011年)。

鎌田恭幸(かまたやすゆき)
1965年、島根県大田市生まれ。1988年、東京都立大学(現・首都大学東京)法学部卒業。日系、外資系の信託銀行を通じて資産運用業務に携わり、株式運用や運用商品企画、機関投資家向けの年金営業などを担当した。外資系信託銀行の副社長を経て2008年11月、元同僚4人で鎌倉投信株式会社を起業し代表取締役社長に就任。独自の視点で「いい会社」に投資する公募投資信託「結い2101」を運用・販売している。著書に『外資金融では出会えなかった日本でいちばん投資したい会社』(アチーブメント出版,2011年)。

J-CSV提唱者の視点

名和 高司 氏(一橋大学大学院国際企業戦略研究科 特任教授)

ESG投資が注目されている。ただその多くは、第三者の評価指標を参考にする程度で、しかも社会性に乏しい企業を除外するために使っているというのが実情だ。

その中で、鎌倉投信は出色だ。「いい会社」を独自に厳選し、長期的にコミットする。経営理念、人財資産、関係性の3つの無形資産を重視している点は、CSV経営の本質を見据えたものだ。しかも「投資のリターン=資産形成×社会形成×心の形成」という方程式は、心の豊かさを重要な目的の1つとしている点において、従来のCSVを超えた価値観を先取りしている。さらに、「人」「共生」「匠」という3つの選択基準は、日本らしい社会価値という意味で、まさにJ-CSVのキーワードと合致している。日本の隠れたCSV企業を発掘し、志の高い一般株主を集め、その両者の対話(エンゲージメント)の機会をプロデュースしている鎌倉投信は、社会全体にJ-CSVを定着させる先導役を担っているといえよう。

筆者も今回のインタビューで初めて、鎌倉の深い緑に抱かれた同社を訪問させていただいた。そこには、1,000年近い悠久の歴史と交感しながら、未来のレガシーを作り出していこうという骨太な志が脈動していた。霞が関では、「人生100年時代構想」がにわかに取りざたされているが、「結い 2101」を展開する鎌倉投信では、まさに100年後を見据えた活動がすでに着実に根を下ろし始めているのである。

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