「良い演技がどのように生まれるのか誰にもわからない。まさに魔法なの。」
本年度アカデミー賞有力候補とされ、現代でも指折りのあの名女優が語る出演秘話。滅多に取材を受けない彼女が今回OKした理由とは?

オスカー女優フランシス・マクドーマンドはめったに取材を受けないことでも知られる。だから今回貴重なインタビューに応じてくれたのは、2018年アカデミー賞最有力とされている作品「スリー・ビルボード」への思い入れが強いことの証明だ。実際、彼女は以前からマーティン・マクドナー監督の作品に出たいと売り込んでいたという。

『スリー・ビルボード』 STORY
最愛の娘が殺されてから既に数ヶ月が経過したにもかかわらず、犯人が逮捕される気配がないことに憤るミルドレッドは、無能な警察に抗議するために町はずれに3枚の巨大な広告板を設置する。たちまちそれをよく思わない警察とミルドレッドの間で、激しい諍いが起こる。
(2018年2月1日より公開中)

「スリー・ビルボード」のフランシス・マクドーマンド

(『』内はすべてフランシス・マクドーマンドの回答)

『我ながら本当に厚かましい。監督には「ご一緒すればすごい映画が撮れる」なんてなぜか言ってしまったの。「ピローマン」(ニューヨーク公演)のブロードウェイ初日の後のパーティーで、自己紹介して、今度監督が映画に進出するという記事を読んだことを伝えた。
そうしたら「舞台にあなたにぴったりの役がありますのでご出演を考えて頂けますか」とおっしゃったので、「そうですね、でも映画を撮っていると伺いました。そちらで役を頂けませんか」と言ってしまった。言った瞬間、「ああ! 言ってしまった。信じられない」って思った。というのは今までに何人もの役者が(夫である)ジョエルとイーサン(コーエン兄弟)に売り込みたい気持ちを出したりひっこめたり、もじもじしてるのを見てきたから。でも言ってよかった。監督は「いいですね」と言ってくれたから』

そして彼女のもとにやってきたのが「スリー・ビルボード」の脚本だった。素晴らしい内容とミルドレッドというキャラクターにほれ込み、すぐに出演を快諾しながら、一つだけ気になったのが演じる役の年齢の問題だった。

『お返事するのにずいぶん時間をかけたの。当時私は五七歳で、生まれは労働者階級。アメリカのその階層の女性の初産が三八歳というのは無理があると思った。だから監督には、やらせて下さい、役柄も素晴らしいです、ただ自分の歳より若い役は難しいので、少女の祖母役にしてほしい、と頼んだの。そうすれば若づくりしなくて済むから。でも監督は納得しなかった。約一年議論が続き、クランクイン直前になってもこの役をやれるかはっきりしなかった。でもそのとき、私の主人が言ったの。
「黙ってやりなさい。監督がその設定でおかしくないと言っているんだから。君のことを想定しながら脚本を書いた上で大丈夫だと言っているのだから監督に従いなさい」と。私は「おばあさんのことはもう忘れます」と答え、それからは二度と祖母役のことは考えなかった』

画像: 写真=娘を殺され警察への怒りに燃える母親、ミルドレッドを演じるフランシス。 娘を殺され、遅々とした捜査への怒りから、3枚の巨大な広告で警察にケンカを売る母親。痛快なほどに毒舌で好戦的だが、心の奥では娘を守れなかった後悔を抱えている。

写真=娘を殺され警察への怒りに燃える母親、ミルドレッドを演じるフランシス。
娘を殺され、遅々とした捜査への怒りから、3枚の巨大な広告で警察にケンカを売る母親。痛快なほどに毒舌で好戦的だが、心の奥では娘を守れなかった後悔を抱えている。

ミルドレッドという女性は気性が激しくも知性があり、ダークでありながらユーモラスな部分も抱えている。そうした複雑さをどのように演じたのだろうか?

『ミルドレッドは陽気な女ではないけれど、無知ゆえの自然な知性とウィットがあり、演じ甲斐があった。私にはコメディー、特に舞台でのコメディーの経験が十分にあるので、間のとりかたはわかっていた。監督が脚本を書いたので、私はそれを覚えるだけだった。良く書けたセリフは大好物よ。特にあの司祭へのセリフ。ジェンダー問題や政治の要素も、全部入ってる。素晴らしく良く書けたセリフであり、文章であり、文学。
メディアや世の中の人はこの映画をアメリカの人種問題や時事問題に関係させて語ることが多いと思うけれど、このセリフはまさにそこの根本のところ。なぜ黒人の役柄が映画のメインにならないのか。それがこのセリフのポイント。そう、アメリカの映画では少数民族出身者は脇役になることが多すぎる。本当はこのセリフのようにあるべきよ』

今回の演技で、再び彼女がアカデミー賞候補に挙がる可能性は高い。彼女は毎回いったいどんな魔法を使って演技を生み出しているのだろうか?

『それは誰にもわからない、ありがたいことに。まさに魔法よ。監督とウッディー(ハレルソン)とこんな話をした。もし文化を最も単純な形式に戻すとしても道化の存在は必要だと。映画館も舞台も要らない。それでも路傍に立ち、人間の善と悪を表現することはできる。それが本当の道化だと思う。だから役者の失業は心配ご無用。いつの世にもうまい道化を引く手はあまたあるから』


現在60歳の彼女は、「ファーゴ」ですでにアカデミー主演女優賞に輝き、TVのエミー賞、舞台のトニー賞という演劇の三冠を達成した数少ない女優の一人だ。そんな彼女にとって、これまでの人生で最高の瞬間はいつだったのか尋ねてみた。

『これからだと思いたい。女性には三つの段階があると言った友人がいる。娘、母、老婆。老婆だってかつてはいろいろな国で尊敬される対象だった。今もそう。母系社会の中心として閉経後でも、出産できなくても、性的魅力が減っても、その豊かな経験は地域全体に役立つの。
歳をとったことをどうこう言う必要はない。ありのままで良いの。60歳にもなると朝起きるのも大変。50代とは違う。でも後悔はしていない。そういう性格ではないから。いつが最高だったかということは、悪かったときもあったということ。だから最高のときはこれからだと思っているわ』

「スリー・ビルボード」
2018年2月1日公開
原題『ミズーリ州、エビングのはずれの三枚の広告掲示板』
2017年度作品
1時間56分
英=米映画
20世紀フォックス映画配給 ©2017 Twentieth Century Fox

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