1980年代のLAに実在した20代だけの若者たちの投資グループ ビリオネア・ボーイズ・クラブ(Billionaire Boys Club、通称BBC)の光と陰を映画化。詐欺まがいの錬金術と派手な豪遊で世間を騒がせつつも短期間で行き詰まり、殺人事件まで引き起こしてしまう、未熟な若者たちの儚い栄光と破滅の軌跡を描いている。

一攫千金を狙った若者の栄光と挫折

本作は80年代に活躍したペットショップボーイズの名曲「Opportunities」を思い起こさせる。

I’ve got the brains you’ve got the looks, let’s make lots of money.
(俺は頭がイイし、お前は見た目がイケてる。一緒に組んで大金を稼ごうぜ!)と歌うこの曲の通り、持ち前の軽さと見た目の良さを活かして高級車のブローカーをしていたディーン・カーニーは、ダサいが頭の回転は速い、高校時代の同級生ジョー・ハントに「一緒に組んでヒトヤマ当てよう」と誘う。

中産階級出身で金がない二人は、同じ高校の出身ながらビバリーヒルズの富豪の子息たちをうまく口説き落とし、投資目的の社交クラブを立ち上げる。それがBBC(ビリオネア・ボーイズ・クラブというのは後付けである)だった。

彼らは詐欺まがいのトークで投資家たちから資金を集めては豪遊を繰り返すが、それは単に遊びたいだけではなく、派手に振舞うことが成功者のイメージを作り出し、投資家たちの興味関心を引き出すことを知っていたからだった。(そうしたコンセプトを、ジョーはパラドックス・フィロソフィーと呼んだ)

しかし、彼らの投資術はすぐに行き詰まり、資金難の挙句に殺人事件まで起こしてしまう。下層階級から抜け出して、頂点を目指した若者の挑戦は悲惨な結果に終わる……。実話をベースとした、青春ピカレスクムービーだ。

画像: Pet Shop Boys - Opportunities (Let's Make Lots of Money) (Version 2) (HD) youtu.be

Pet Shop Boys - Opportunities (Let's Make Lots of Money) (Version 2) (HD)

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階層社会で下克上を目指した若者たちの哀しい結末

本作の主人公はジョー・ハント。彼をBBCに引き込むことになるディーンは、BBCが立ち上がると脇役に回る。BBCの構想や、資金の運用はすべてジョーが主体的に行なっている。

安いスーツに身を包んでいたダサ男はアルマーニを着こなし、美しく金持の美女を口説くトークもこなすようになるが、BBCそのものを当初から詐欺としてとらえていたわけではない。詐欺すれすれの甘言で集めた金であっても、実際に巧みに運用して金を稼げればいいと、ある意味タカを括っていたともいえるし、自分の能力に対する根拠のない自信に踊らされていたとも言えるだろう。

ただ、2010年代の今日では、優秀な若者ならば起業して大金を集めることも十分可能になっており、その意味でジョー・ハントたちも今の時代に生きていれば、別の手段による成功を得ていたかもしれない。実際、会社を立ち上げて企業価値を上げることで大金を集めたベンチャー企業が、大した売上も利益も出せないうちに失速していくことはよくあるし、それでもその創業者が大金を手にすることもよくあることだからだ。

本作では、ジョーたちBBCのメンバーが見せる狂騒と、若者ならではの有頂天ぶりのあとの激しい落胆ぶりなどが短い時間の中で表現される。映画の後半の彼らの凋落と動揺ぶりは恐ろしく惨めだが、大抵の人ならば、前半に繰り広げられる若者の無軌道さや自分勝手な大騒ぎに嫌気さし、後半の彼らの失墜を“ざまあみろ”という気分でみるかもしれない。

しかし、惨めな境遇から抜け出そうとあがき、当時の若き成功者のシンボルだったスティーブ・ジョブス(彼が表紙を飾った雑誌が本作中にも登場する)を真似て大成功を目指そうと思い、実際に行動する若者の挑戦を描いた映画と思えば、別の見方ができるに違いない。

詐欺でも殺人でも、犯罪は良くないのはいうまでもないが、覆しようもないような階層社会の中で“下克上”を目指した者たちの一つの軌跡と思って見れば、分厚い壁に跳ね返された若者たちの挑戦の徒花として、哀れに思えてくる、そんな映画である。

画像: 『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』予告篇【2018年11月10日(土)公開】 youtu.be

『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』予告篇【2018年11月10日(土)公開】

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画像: 『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』パラドックス・フィロソフィ(逆説の哲学)で成功を目指した若者たちの哀しい挑戦

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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