COVID-19によって大幅に増えた自宅時間を有意義に過ごすための映画評。
今回の作品は、ジェームズ・キャメロン製作による、ターミネーターシリーズの最新作。名作の誉高い『T2』の正式な続編という触れ込みで公開された。
画像: 『ターミネーター:ニュー・フェイト』2020.2.12デジタル配信/2020.3.4ブルーレイ&DVDリリース youtu.be

『ターミネーター:ニュー・フェイト』2020.2.12デジタル配信/2020.3.4ブルーレイ&DVDリリース

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未来からの刺客と守護者の戦いを描く人気シリーズ

低予算のSF映画として製作されたものの、予想外の世界的ヒットを挙げたことによりシリーズ化され、ハリウッド有数のIP(Intellectual Property =知的財産)となったのが『ターミネーター』。

高度に進化したコンピューターの反乱によって、機械 VS人類の戦争が勃発した近未来。人類のリーダーがこの世に生を受ける前に母親 を抹殺しようと企むコンピューターは、タイムマシンを開発し、人間の姿を模した殺人ロボット“ターミネーター”を過去に向けて送り込む。
そしてそれを察知した人類側も、リーダーの母親となる女を守護するため兵士を過去に送る。
これが『ターミネーター』の基本コンセプトであり、シリーズ全体に一貫する約束事だ。

この世に約束事をベースにして、シリーズ化されたあとは、

  1. ターミネーター
  2. ターミネーター2
  3. ターミネーター3
  4. ターミネーター4
  5. ターミネーター:新起動/ジェニシス
  6. 本作(ターミネーター:ニュー・フェイト)

の6作が作られてきたわけだが、本作は、2作目である『ターミネーター2(T2と称される)』の正式な続編として、1・2作の製作を担当したジェームズ・キャメロンが復帰したことでも話題になった。つまり、従来の、3、4、5の3作はなかったことにする、というかなり乱暴な豪腕を振るってとりかかったわけである。

ちなみに、T1で初めて登場したターミネーターの執拗な追跡を振り切ったサラ・コナーは無事に出産してジョンを生むが、未来から送られてきた守護者は残念ながら命を落とす。
T2では再び現れた新型ターミネーターに追われるが、守護者として送られてきた旧型(T1で最悪の敵だったモデル)のターミネーターがサラとジョンを守ろうとする。
(なかったことにされる)T3は、ジョンは生き残るものの結局人類の敵スカイネットの暴走は止められず未来は変えられないというバッドエンド。T4はスカイネットによって人類が蹂躙された世界で、長じたジョン・コナーを描き、T5では(新起動、という邦題がつけられたように)、ジョン・コナー自体がダークサイドに取り込まれてしまったという新たな設定でリブートを目指したが、目論見は外れた。

コレが、ターミネーターシリーズのこれまでのざっとした展開だ。ただ、T3以降の3作は思ったほどの大ヒットにはならなかったのだろう、オリジナルを生み出した張本人であるジェームズ・キャメロン大御所が復帰して、本作の製作に乗り出した、というわけだ。

アーノルド・シュワルツネッガーを出演させる、という呪縛

ターミネーターシリーズには、これまで3つの大きな約束事が存在する。1つは前述のごとく、近い将来機械文明が暴走し人類を滅ぼそうとするが、抵抗する人類のリーダーを誕生前に抹殺するため、タイムマシンを開発して、人類の母親=サラ・コナー、息子(人類のリーダー)=ジョン・コナーを殺そうとする。そのための暗殺者がターミネーターであり、人類側も未来のリーダーを救うため守護者を送る、という基本的なプロット。

2つめは、その機械文明を暴走させる張本人はスカイネットと呼ばれる高機能コンピューター。

3つめは、初代ターミネーターを演じたアーノルド・シュワルツネッガーはターミネーターシリーズの象徴として常に登場する、というのもの。(ちなみにT4ではCGによる“若い頃の顔”だけの登場であり、正確にはシュワルツネッガーは出演してはいない)

基本的に作品ごとに適宜設定をいじりながらも、この3大原則をベースに本シリーズは製作されてきた。

ところが、最新作である『ターミネーター:ニュー・フェイト』では、T2によってスカイネットの誕生は阻止されたものの、スカイネットに代わる(コンピューターではなく、AIの暴走が起きたことになっているのだが、高機能なコンピューターと高機能なAIが何が違うのか?という基本的な疑問を生む....)新しい敵が、結局は人類を駆逐しようとして、同じようなディストピアが生まれてしまう。つまり、スカイネット、という悪の象徴は抹消されている。
(スター・ウォーズで例えれば、シスってなあに?と言われてしまうようなものだ)
となると、サラ・コナーもジョン・コナーも登場するものの、未来の人類を率いるリーダーはジョンではない。サラもジョンも基本的に蚊帳の外、という設定になる。

機械文明が(AIによって)暴走し人類を滅ぼそうとするが、抵抗する人類のリーダーを誕生前に抹殺するため、タイムマシンを開発して暗殺者(ターミネーター)を過去に送る。人類側も未来のリーダーを救うため守護者を送る、という基本的なプロット自体には、変わりはないのだが

原則の1と2があっさり上書きされているのが本作の本作たる所以なのだが、ただ1つ、シュワルツネッガーを登場させてしまったことで、3大原則すべての上書きには失敗しているのが、不思議だ。どうせなら、改めてT1を新しい設定で作ればよかったのに、と思う。

機械文明が暴走し人類を滅ぼそうとするが、抵抗する人類のリーダーを誕生前に抹殺するため、タイムマシンを開発して暗殺者(ターミネーター)を過去に送る。人類側も未来のリーダーを救うため守護者を送る、という基本的なプロットにだけ忠実になって、余計な過去の設定に縛られない方がよかったのに、と感じざるを得ない。

ヒットさせるためにはシュワちゃんが必要、と思ったのかもしれないが、過去の設定や物語はすべてなかったことにして、1から『ターミネーター』を作ればよかったのではないか?と僕的には残念でならないのである。

冒頭で述べたように低予算であったがゆえに、多分にシュワルツネッガーの無骨な無表情さと、強靭な肉体に負うことで成功したとも言えるオリジナルを、今のCGと大幅に増額されたであろう予算で作り直すいいチャンスだったのに、と考えてしまうのだが、それでも本作は面白くないか?と聞かれれば、十分に面白いとは言える。
ただ、ターミネーターの大ファンとしては、無用な呪縛に囚われなければ、もっと良い作品に仕上げられたのにな、と感じてしまうだけなのである。

画像: 『ターミネーター:ニュー・フェイト』スカイネットもなかったことに?

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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