ノルウェーの田舎街エッダ。街の経済を一手に握るヨツール工業は、汚染物質を垂れ流していることで環境破壊を行っているという噂に晒されていたが、経営者(オーナー)一家は巧みな隠蔽によって街の名士として尊敬を集め、誰も口出しさせることはない。
その経営者一家4人(夫婦と兄妹)は、実は北欧神話で語られる巨人の一族。彼らは太古の時代から人間社会に入り込み、裕福な暮らしを享受していたが、誰にもその正体を悟らせることはなかったのである。母親と弟と共にエッダに引っ越してきた1人の少年マグニが覚醒するまでは・・・。
巨人たちの安楽な日々に黄色信号を灯した少年マグニこそは、巨人たちの最大の仇敵である、雷神トールの生まれ変わりなのだった。"環境問題"をテーマとしたストーリーを、巨人vs神という北欧神話のクライマックスに絡めてヒーロー物に仕立てた、風変わりなSFシリーズだ。

日本人にはマイナー?欧米圏ではメジャーな北欧神話とラグナロク

本作は、北欧神話をベースに構成されており、全編ノルウェー語?で作られている。
主人公のマグニは北欧神話最強の神トール(アベンジャーズにも登場するソーは、このトール=Thorの英語読み)の生まれ変わり?であり、彼と敵対するヴィラン ヨツール一家は、北欧神話で神々と対立する巨人族である。だから北欧神話への理解がないと、なかなか本作の設定を面白く感じることはできないだろう。

多くの日本人にとっては、北欧神話もラグナロクもあまり馴染みがないだろうから簡単に説明すると、

北欧神話とは、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランドなどの地域に伝わる神話で、ざっくり言うとギリシア神話やキリスト教由来の神話と同じくらい英語圏の人々には"教養"としてよく知られる、彼らの文化的バックボーンの一つだ。
例えば英語での曜日の呼称は、ギリシア・ローマ神話(ローマ神話の多くはギリシア神話を下敷きにした焼き直しであり、ほぼイコールと言っていい)と北欧神話の神々の名から派生している。
(月火土はギリシア・ローマ神話由来、水木金は北欧神話由来

  • 日曜日|Sunday
    Sun=太陽の日
  • 月曜日|Monday
    Moon=月の日
  • 火曜日|Tuesday
    Tyr(チュール)の日。Tyrとは北欧神話の最高神オーディンの3番目の息子であり、軍神
  • 水曜日|Wednesday
    Odin(オーディン)の日。上述の如く、ゼウスに相当する最高神
  • 木曜日|Thursday
    Thor(トールもしくはソー)は北欧神話の雷神、オーディンの息子。本作『ラグナロク』の主人公であり、マーベル映画の『マイティ・ソー』のソーもこの神からヒントを得ている。
    ちなみに、本作ではマグニに弟がいるが、彼はおそらくロキとして覚醒するのだろう。
    北欧神話においては、オーディン、トールと並んで、巨人の侵攻の引き金となる悪神ロキの存在は非常に大きいのだ。
  • 金曜日|Friday
    Freja(フレイヤ)の日。Frejaは北欧神話の美と豊穣の女神。
  • 土曜日|Saturday

ギリシア神話と同様に、この世界はまず巨人によって造られたが、その巨人の子供(北欧神話ではオーディン、ギリシア神話ではゼウス)が反乱を起こして巨人を駆逐して、神として君臨する、という共通の設定がある。(ちなみに、世界を作ったのは巨人だが、人間を作ったのはオーディンとされる)
北欧神話の場合、その後再び力を取り戻した巨人たちと神々の間で戦争が起こり、神々は激しい戦いの中で次々と命を落とし、最後はスルトという巨人が放った業火の中で滅亡する。この最終戦争をラグナロク(神々の黄昏)と呼ぶのである。

ちなみに、オーディンは魔狼フェンリルに飲み込まれ惨死。トールも巨大な魔蛇ヨルムンガンドと相討ちとなって死ぬ。
(ただし、生き残った神もいて、彼らによって新たな世界が構築されていくことになる。トールには父親を凌ぐ怪力を持つマグニという息子がいるのだが、彼も生き残る。このマグニが本作の主人公マグニの名前の由来になっているかどうかはわからない・・・)

世界中で伝わるさまざまな神話の中で、神々が滅ぶ、という設定がある神話はかなり珍しい。ラグナロクの存在は、永久不滅の存在はない、という思想につながり、イエス・キリストが処刑されるゴルゴダの丘と同じような"怖れもしくは畏れ"を人間の心に植え付けているのかもしれないし、それがゆえに欧州の人々の文化的バックボーンとしていまだに残っているのかもしれない。
(ちなみに、ラグナロクおよび北欧神話は多くのゲームやファンタジーコミックのベースに採用されており、それらを通じてむしろ若者には言葉自体はよく知られているかもしれない)

環境問題+北欧神話=『ラグナロク』?
環境問題with北欧神話=『ラグナロク』??それが問題だ

長々と北欧神話を説明したが、それは本作を観続けるために必須と思ったからだ。
本作ではエッダに越してきた少年マグニが、エッダで雑貨屋を営む老婆と接触することで、トールとしての力を得るのだが、少なくとも現在公開されているシーズン1ではこの老婆が何者であるか全くわからないし、なぜマグニがトールとして選ばれたのかもわからない。
さらにいうと、巨人がその正体を隠して経営しているヨツール工業が氷河を汚染していることを隠蔽しているにせよ、神の復活が必要なほどの悪事はしていないようにみえる。悪い人間、ではあっても、その正体を旧世界から生存している禍々しい存在とするには、悪さの度合いが小さい気がするのだ。

本作では、ヨツール一家の正体に気づいたマグニ=トールと、マグニが自分たちの仇敵である神であると知ったヨツール一家が互いに憎悪を募らせていく様子を描いているが、その行動は、最後の最後まで直接対決するのではなく、ヨツール工業の環境破壊の証拠探しと隠蔽工作、という実に人間社会的なもので終始する。

つまりは、本作は環境問題を引き起こしてでも発展しようとする経済の担い手とその解決を目指す者たちの争いを、北欧神話に紐づく設定で描いた作品であり、神と巨人の戦いはいまのところちょっとしたスパイスに過ぎない、という感じなのだ。

本作はシーズン2の制作が決定しているらしく、北欧神話的な解釈や描写が今後は増えてくるかもしれないが、とりあえずは、その地味さを我慢しながら、じっくり観ていくという忍耐を必要とすることは言っておこう。

画像: 『ラグナロク』神々の黄昏は現代も続いていた?
- 北欧神話の神と巨人の最終戦争ラグナロクを題材とした、Netflix オリジナル作品

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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