19世紀末に起きた、新しい文明のインフラとなる“電気”の担い手争い“電流戦争(War of Currents)”(直流=DCを支持したエジソン陣営VS交流=ACを支持したウェスティングハウス陣営との利権争い)を描いた作品。
主人公のトーマス・エジソンをベネディクト・カンバーバッチ、敵対する実業家ジョージ・ウェスティングハウスをマイケル・シャノンが演じている。さらに、エジソンと対立してウェスティングハウス側に加わることになる天才技術者ニコラ・テスラ役に、ニコラス・ホルトが配されている。
(さらに、エジソンの秘書役として、スパイダーマン役としてブレイク中のトム・ホランドが配役されているという豪華さだ)

文明のインフラ成立前夜の、実話ベースの物語

1800年代終盤、人類が夜の暗闇を克服し 常に明るい都市を手に入れる前夜。
“発明王”トーマス・A・エジソンが白熱電球を発明したことで、街を明るく照らす手段を手に入れた人類だったが、肝心の電気を全米に送り届ける(送電する)必要性に直面していた。
電球を発明したエジソンは、電球自体を効率的に使えるという理由で、直流のまま配電するネットワークの普及を目指したが、ニコラ・テスラとウェスティングハウスが掲げる交流送電と配電ネットワークと敵対し、激しい競争状態に陥る(これがいわゆる“電流戦争”であり、本作の原題は電流戦争の英語表現、The Current Warとなっている)。

エジソンは、“交流送電は高圧すぎて人間を感電死させる危険性がある”と主張するなど激しいネガティヴキャンペーンを繰り広げるが、ウェスティングハウスは“交流システム”の経済性(コストパフォーマンスの良さ)を喧伝し、エジソン陣営に対抗する。

結論的には、現在の我々の暮らしを見ればわかるように、この勝負は“交流システム”に軍配が上がり、敗れたエジソンは電気から蓄音機や映写機(活動写真)に関するビジネスへと事業の主軸を移していく。
本作は、この電流戦争の顛末を基にした作品である。

【豆知識としてのPros and Cons】
直流送電と交流送電のメリット・デメリットを簡単に説明すると、交流は変圧器によって電圧を変えられるし、交流→直流への変換も簡単だから、高い電圧にして遠くまで電気を送って、使う直前に電圧を落として、直流に戻せばいい(交流→直流を行う器具をコンバーター、直流→交流をインバーターという)。
直流は電圧を変えられないので、これができず、実際に用途に適した低い電圧で送電せざるを得ない。だからあまり遠くまで電気を運べないというわけ。
もちろん変圧器を通すときに電気が熱に変わってしまうなど、エネルギーロスは発生するけれど、それでもむりやり直流を遠くまで配電するよりはコストが安くなる(19世紀末〜21世紀初頭の技術では)。
だから、交流システムの方が経済性が高い、という判断が下された。

直流(DC)交流(AC)
電圧の大きさと電流が流れる方向が一定時間の経過とともに一定の周期をもって電圧の大きさと向きが変化
電圧を上げられないので長距離送電には向かない高圧で送電できるので長距離配電に向く(家庭での利用時に低電圧に変圧する)
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技術者としての矜持が邪魔をして、ビジネスパーソンとしての目を曇らせたエジソン

エジソンは、今日の日本では、天才発明家としての印象が強く、ビジネスマンとして彼を捉える人は少ないように思える。しかし、実際には、エジソンはその発想・アイデアの凄さで語られるよりは、その実現に向けての献身のひたむきさで評されるべき人物であり、いまでいう起業家そのものである。
(彼が起こした電力会社のスポンサーとなるのがJ.P.モルガン、そしてその会社がやがて現代のゼネラル・エレクトリック=GEとなる)

彼は電球をはじめ、さまざまな画期的発明をしたが、単に特許をとるだけでなく、実際に自分自身で作り上げ、製品もしくは商品として生み出すことに腐心した。理念の人ではなく、実践する人だった(本作においては、天才技術者のテスラが頭の中で理論を積み上げて、矛盾をなくすことで完成とする、学者型として描かれ、エジソンはビジネスパーソン型として描かれている)。

ただ、ウェスティングハウスが妥協や宥和的な交渉を好むタイプであったのに対し、エジソンは自らの発見や発明にこだわる技術者の純粋さが強すぎたため、同じ技術者テスラの進言にも耳を貸せないし、実務家のウェスティングハウスの考え方も不純としか思えない。そこで意固地になってしまったエジソンは、不利と分かっていながらも自分の考えに固執してしまうのである。

今ふうの言い方をすれば、エジソンはピボットできず、頑固なあまりに勝機を見出せなかった、ということになるだろう。

ちなみに、電力のあり方(発電、送電、配電)を考えるに、そもそも交流と直流の違いってなんだろうとか、自分が使っている様々な家電製品に、ACアダプターがあり、それがなんのために存在しているのかを常日頃意識している人は少ないと思うのだが、本作をみると、改めて ああなるほどね、と自分の周囲の科学技術の存在意義や必要性に思いが及ぶ。

逆にいうと、なにかしら自分をインスパイアしてくれる作品(映像作品に限らず、音楽でも小説でも絵画でもいい、もしくは いわゆるニュースのような 創作物ではない、新たな事実を知ることでもいい)に触れられること、そして自分の中の常識や知識、感覚をアップデートする機会とすることは非常に大事。そういう機会を常に待ち望む感受性を、いつでも持ち合わせていたいなと思う次第である。

画像: 『エジソンズ・ゲーム』エジソン対テスラ&ウェスティングハウスの、電流戦争の帰結とは

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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