ビール、ワイン、ウイスキー……洋酒が酒席を席巻し、日本人が日本酒と距離を置いた時期もあった。しかしここ数年、海外を含め日本酒が脚光を浴びはじている。それに伴い、国内でも日本酒を楽しむ人が増えているのだ。そこで今回は、日本酒を呑んでみたい! もっとよく知りたい!なんて人のために、日本酒の楽しみ方をご紹介。まずは、難しい知識を必要としない、誰もがすぐにできる簡単な楽しみ方を解説していく。
※取材協力:日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)

日本酒をブームで終わらせないために

ここ10年ほど、日本酒が若い女性たちを交えて“ブーム”になってきている。その理由はいくつかあるが、ひとつは、製法の進化によってフルーティーな香りが醸され、豊潤で美味しくなったことがあげられる。

意外、と感じるかもしれないが、日本酒の醸造方法は年々進化を重ねており、ひと昔前と比べても味は格段によくなっているのだ。

そして、海外での日本食ブームと共に、その日本食に合うお酒として注目されたことも大きいだろう。味も上品で美味しく、他のワインやウイスキーと比べて非常に安価とあって瞬く間に人気が集中したのだ。そんな海外での日本酒人気が伝播し、逆輸入のような形で日本に入ってきたわけである。

しかし、“ブーム”というのはいつか過ぎ去るものだ。せっかく日本酒を楽しむ機会が増えている今だからこそ、ただのブームで終わらせず、改めてその奥深い味わいや楽しみ方を理解していきたい。

まずは、その味わいを4つのタイプに分類して、誰もが簡単に日本酒を楽しめる方法をご紹介していこう。

言葉や知識に惑わされず、純粋に味を楽しもう!

大吟醸や純米酒、辛口や甘口といった言葉が先行し、『大吟醸だからまろやかな味』、『値段が高いから品のいい味』、『辛口と書いてあるから辛口の酒』といった、あいまいな先入観はないだろうか? 実はそれ、大きな間違いなのだ。(これに関しては、別の記事で詳しく解説していく予定)

まず日本酒を楽しもうと思ったら、最初にすることは頭の中からそうした言葉を払拭すること。そのうえで、目の前に出された日本酒を、自分の舌や鼻を利かせて、じっくりと味わってみる。

このとき、日本酒の味を4つのタイプにわけ、それをもとに飲み比べてみると、その日本酒の味がより鮮明に分かってくる。

このタイプが、四季に応じた行事や酒器(おちょこやグラスなど)、料理との食べ合わせといった、さまざまな項目に密接に関わってくるのだ。

まずは、銘柄や価格、種類といったところは一切無視して、気になった日本酒を口に含んでみよう。そこであなたが感じたことを、下記4つのタイプに当てはめてみてほしい。

薫酒(くんしゅ)
香りの高いタイプ

味わいは比較的軽快なものが多く、甘い果実のようなフルーティーに香るものが薫酒の特徴。海外で日本酒ブームが起きたとき、それを牽引したのが薫酒タイプの酒である。

最近の国内の日本酒ブームの中でも、比較的多くの人が支持しているのが薫酒であり、大きく分ければ『大吟醸』、『吟醸』といったものが薫酒に該当する。しかし、『純米酒』や『無濾過生原酒』など吟醸酒以外のタイプの日本酒でも薫酒のタイプに属することもあるので、言葉だけでの判断はできない。

代表的な薫酒タイプのお酒

純米吟醸酒 出羽桜(山形県)・純米大吟醸酒 獺祭50(山口県)・純米大吟醸酒 久保田 萬寿(新潟県)など

4タイプの味わいを四季で表現するのならば、華やかな香りを持つ薫酒は春から初夏にかけてのイメージ

爽酒(そうしゅ)
軽快でなめらかなタイプ

4つのタイプの中でも最も軽快な香味。そして、すっきりとした飲みやすさが特徴で『淡麗』などと表記されることが多い。ライト嗜好が多くなった昨今の日本人の好みにもマッチし、実際に日本酒全体の70%近いシェアを、この爽酒が占めている。

『普通酒』、『本醸造酒』、『生酒』と表記されたものが、主に爽酒に該当する。また、地域的なところにも特徴があり、比較的淡麗な日本酒を造っている北海道産や新潟県産には爽酒が多い傾向にある。

代表的な爽酒タイプのお酒

純米吟醸酒 上善如水(新潟県)・吟醸酒 八海山(新潟県)・普通酒 吉乃川 厳選辛口(新潟県)など

喉の渇きをいやしてくれそうなスッキリとした味わいの爽酒は夏をイメージさせる日本酒

醇酒(じゅんしゅ)
コクのあるタイプ

米を材料にした日本酒ならではの旨味やコクを、存分に堪能できるタイプの日本酒。醇酒を「ふくよかな味わい」と表現する人も多い。主に『純米酒』、『山廃仕込み(または山廃酛)』と表記されたものが典型的な醇酒タイプになる。

また、『無濾過生原酒』といった香味の強いもの、アルコール度数の高い『原酒』、地域特性を反映した『地酒』なども醇酒に該当することも。もっとも日本酒らしい日本酒、として醇酒を好む人は多い。

代表的な醇酒タイプのお酒

沢の鶴 1973年醸造(兵庫県)・特別純米酒 人気一 1998年醸造(福島県)・達磨正宗3年古酒(岐阜県)など

コクを感じさせる醇酒は、料理の味を引き立たせてくれる。食の秋にふさわしい味わい

熟酒(じゅくしゅ)
熟成タイプ

無色透明ではなく、やや黄金色に色づいたのが熟酒。ドライフルーツのような濃厚で熟成した香りに、とろりとした飲み口で、口に入れた瞬間に濃厚な味と香りが口内に広がり、かなり個性は強い

高価で希少性のあり、万人好みする日本酒ではない。3年以上(中には10年以上)熟成させたものが典型的な熟酒といわれる。ラベルに「古酒」、「長期熟成」と表記されたものが、熟酒のタイプに属する。

余談だが、「高い酒をくれ」なんて注文をすると、ほとんどの確率で熟酒が出てくることになる。

代表的な熟酒タイプのお酒

純米酒 山廃仕込み 天狗舞(石川県)・純米酒 大七 生酛(福島県)・純米大辛口 澤乃井(東京都)など

濃厚な味わいを楽しめる熟酒は、冬、暖の効いた部屋でゆっくりと味わいたい日本酒

タイプから広がる日本酒の世界

味や香りの強弱はあるにせよ、どの日本酒も薫酒・爽酒・醇酒・熟酒に分類できる。

これまで甘口や辛口といった言葉に惑わされ、なにが好きなのかわからない……なんて迷っていた方も、上記を参考に自分の好みのお酒が分かれば、あとは簡単。

「フルーティーな香りのものを(薫酒)」、「すっきりした飲み口のものを(爽酒)」、「コクのあるお酒を(醇酒)」、「芳醇だけど飲みやすいものを(熟酒)」なんて注文をするだけで、お店側もイメージしやすく、あなたの希望するお酒が手に入るはずだ。

もちろんこれは、日本酒を楽しむための入り口に過ぎない。熱燗や冷やといった温度による味の変化や、それに合わせた酒器選び、料理との相性といった、もっともっと奥深い世界がその奥には広がっている。

このあとに続く日本酒記事では、より楽しむための知識やノウハウを紹介予定。ぜひ期待してほしい。