長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。過去を捨てたはずが、なぜかいつまでも追いかけてこられることに嫌気がさす近頃ですが。
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第46話「竃にぎわい」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部
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爆音と共に過去が追いかけてくる
テレビ局を辞めて、試行錯誤しながらも自分らしい暮らしを手に入れようと、躍起になっているというのに、ちょっとした偶然が私のささやかな願いを綻びさせる。
かつての業界仲間だった菊間に今の住処を見つけられたのも偶然だった。小さな芸能事務所を立ち上げたことは知っていたが、今ではかなり羽振り良く動いているらしい。過去を捨てた私のことなどほっておいてくれればいいものを、なぜかしつこく絡んでくる。
今日も突然仲間を引き連れて不意にやってきたのだった。
松ちゃんの不機嫌を意にも介さない男
黒くてでかいハーレーにまたがってやってきた菊間は、自分の訪問を喜んで受け入れない者はいないだろうという自信に満ちていた。
例え4歳児であっても、一目で不機嫌と察せられるだろうほど苦虫を噛み潰したような表情で私が迎えていることなど意にも介さない。
いーから出て行け!!癇癪を起こす松ちゃん
菊間、と私はゆっくり口を開いた。「来るなと言ったろォ」
すると菊間は私の怒気に全く反応せず、能天気な口調で「いろいろ用意してきてやったからヨ!」と笑った。
車からは露出の高い服装の若い娘が2人と、運転してきた太り肉の男が降りてきた。「ほらっみんな手分けしてバーベキューの用意してェ‼︎!」と菊間が指示を出したのを聞いて私は耳を疑った。
「いーから出て行け!!」私は我慢できず怒鳴ると、菊間に詰め寄った。
はたして、菊間は黙って退散するのか?
捨てたくて仕方がない過去が松ちゃんを解放してくれる日は来るのか?
楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。