デカいバイクとどこまでも走り抜く。そんな男の夢を叶えるのがホンダのゴールドウィングだ。
だけどデカいバイクに憧れるのは大人ばかりじゃない。男の子なら、誰でもデッカいバイクに関心ありありなのさ。
オートバイ2019年10月号別冊付録(第85巻第15号)「GOLD WINGER」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

デカいあいつと何処までも

俺はアテもないツーリングの最中だった。
相棒はとにかくデカい、ホンダのゴールドウィングだ。こいつと一緒なら、日本縦断くらいなんてことはない。なんなら3往復くらいしてやろうかってくらい、快適なもんさ。

男なら、デカいやつに乗りたい。そうだろう?

驚くほど向かい風を感じない。かといって退屈することもない、流れる景色を楽しみながら俺は相棒を走らせていた。

そんなとき、赤信号にひっかかり、バイクを停めた俺のとなりの車線に白いデカい車の姿が見えた。JeepのSUVだ。人の良さそうな中年男性のドライバーは前を向いたままだったが、助手席に座っている小学生らしい男の子が、こちらの存在に気づいた。

男の子は窓を開けると、右手を俺の方に向けて突き出した。手に何か持っている。
それはSFぽいテイストの、多分なんとか戦隊の何某なんだろう、ヒーローらしき人形がまたがるバイクの玩具だった。
俺のゴールドウィングに、その玩具と似たものを感じたのだろう。彼は俺に見せつけるようにその玩具のバイクを飛ぶように走る様を見せるような仕草をした。

少年よ、10年後に一緒に走ろうぜ

びゅんびゅん!
男の子は楽しげにバイクを走らせてみせたのだ。もちろん免許もない、16歳になる頃にはバイクになんて興味がなくなっているかもしれない、しかし今は間違いなく彼は俺と同じバイク乗りなのだ。話しかけることもできないが、俺は嬉しくなり、その男の子にいつか空想の中だけでなく、本物のバイクの楽しさを知ってもらいたいと思った。
そのとき信号が青に変わり、俺はスロットルを開けて、バイクを走らせ始めた。男の子に向けて左手を上げて別れを告げると、彼も左手を上げて俺に挨拶を返してみせた。

その顔は、たしかに、間違いなく俺と同じ、バイク乗りのそれだった。

彼が10年後にもまだバイクに興味を持ってくれているかはわからない。空想の中のバイクをいつか降りた彼が、本物のバイクを手に入れようとしてくれるかどうかはまったくもってわからない。

しかし、今日この瞬間は、彼も俺も、同じバイク乗り。
なあ、少年よ、いつか一緒にこんなデカいバイクで何処までも走ろうぜ。その時を楽しみに、俺は相棒と待ってるぜ。な!

—少年の空想の中のスーパーランの模様は、本誌でご確認ください。—

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。