ミドル級では無敵と思われる強さを誇るカネロだが、全盛期は過ぎているとはいえ、いまだその強打者ぶりをみせるうえにナチュラルボーンのL・ヘビー級の体格を持つコバレフへの挑戦はリスキーすぎるのではないか?とも思われるが、果たして・・。
人気・実力ともに一級品のカネロ・アルバレス
マット・デイモン似の端正なマスクと、175cmという(ミドル級であっても)決して高くはない上背ながら実に雄大な体格を持つこのボクサーは、現在の世界のボクシングシーンの中核にいると言っていい、強さと人気を併せ持つスーパースターだ。
(カネロというのはスペイン語でシナモンの意味で、メキシコ人としては珍しく赤毛をもつアルバレスにつけられたニックネームである)
常に相手を倒そうとする外連味のない試合スタイルは、真っ向勝負と打ち合いを好む多くのボクシングファンを魅了し、高い人気を誇ってきた。唯一の敗北はスーパーウェルター級元王者のフロイド・メイウェザー・jrとの試合での判定負けだが、それも2013年の話。その後、若さゆえの強引さだけでなく、老獪なテクニックと巧妙な試合運びを覚えてからは、順調にキャリアを築いてきた。
現在ボクシングは(特に海外マーケットでは)正直言ってチャンピオンベルトを腰に巻いているからといって「最強」と呼んでもらえるわけではないし、金を稼げるわけでもない。特にTVだけでなくモバイル経由でも広がっているペイパービュー(PPV) (= 有料コンテンツに料金を支払って視聴するシステム) や、月額定額のサブスクリプション型の新興動画ストリーミングサービスが普及し始めた現代にあっては、試合会場をいっぱいにするだけでなく、ネット端末経由での有料視聴に応じる視聴者を世界中で集めることができる選手こそが、スターであり、いいボクサーであるということになる。
チャンピオンであることはそれなりに意義はあるが、それよりも客を呼べて金を稼げるボクサーであることがスーパースターの定義となっているのである。その意味で、チャンピオンを目指すために、勝利だけを目的に試合をしても、平凡な試合展開であれば客を逃す。ファンが観たくなるようなストーリーを持つ試合を組まなければいけないし、一瞬たりとも目を離したくなくなるようなエキサイティングな試合をしなければスターにはなれない。チャンピオンになればスターになれるわけではなく、スーパースターになるためのキッカケのような位置付けになっているとも言えるだろう。
その意味で、前述のように、常に真っ向勝負を挑む、男らしい勝負スタイルを貫くうえ、見た目も良いカネロは世界的に人気を博するボクサーとなるべくしてなったといえる。彼の見た目、試合スタイル、積み重ねてきた勝利、そしてリスクを厭わないマッチメイク。これらすべてが良い方向に回転し、カネロはスーパースターとなった。もちろんチャンピオンベルトを持っているが、そのベルトも史上最強とも謳われたミドル級王者のゲンナディ・ゴロフキンから奪った、非常に価値あるベルトだ。ただ王者になりやすいから比較的弱そうなチャンピオンとの試合を組むのではなく、もっとも強い相手と戦って勝つからこそ、スターへの切符を手に入れたと言えるのである。
(マッチメイクにおいては、往年の名選手であるオスカー・デラホーヤ率いるゴールデンボーイ・プロモーションズ( Golden Boy Promotions, Inc.)と契約し、その成果として英国スポーツ専門ストリーミング会社のDAZNと5年間で11戦を総額3億6500万ドル≒1試合あたり3000万ドルもらえる という大型契約を結んでいる)
もちろんスーパースターになれば、あとは手を抜いていい、ということにはならない。実力はあっても人気がなければ、金になる試合=スーパーファイトまたはメガファイトは組んでもらえない。稼ぎたければ、頂点を極めた後も、冒険をし続けなければならないのだ。
コバレフ戦、というより、L・ヘビー級制覇(実現すればカネロにとっては4階級制覇となる)に挑むのも、スーパースターで居続けるための義務というべき所業なのである。
L・ヘビー級の名王者コバレフ
コバレフは2019年8月24日(日本時間25日)に、指名挑戦者の1位アンソニー・ヤード(英)にKO勝ちを収めてWBO王座の初防衛戦に成功したばかり。年齢的にはピークを過ぎたとはいえ、まだまだ元気。KO率85%を誇る強打者だ。
みなさんご承知の通り、ボクシングとは階級制のスポーツであり、選手は体重によって細かく分けられた枠の中で、試合を行なっている。(現在のところ下記の17階級に分かれている)
1 ミニマム級 ( Mm ) 105ポンド(47.62キロ)以下
2 ライト・フライ級 ( L.F ) 105ポンド超え108ポンド(48.97キロ)まで
3 フライ級 ( F ) 108ポンド超え112ポンド(50.80キロ)まで
4 スーパー・フライ級 ( S.F ) 112ポンド超え115ポンド(52.16キロ)まで
5 バンタム級 ( B ) 115ポンド超え118ポンド(53.52キロ)まで
6 スーパー・バンタム級 ( S.B ) 118ポンド超え122ポンド(55.34キロ)まで
7 フェザー級 ( Fe ) 122ポンド超え126ポンド(57.15キロ)まで
8 スーパー・フェザー級 ( S.Fe ) 126ポンド超え130ポンド(58.97キロ)まで
9 ライト級 ( L ) 130ポンド超え135ポンド(61.23キロ)まで
10 スーパー・ライト級 ( S.L ) 135ポンド超え140ポンド(63.50キロ)まで
11 ウェルター 級 ( W ) 140ポンド超え147ポンド(66.68キロ)まで
12 スーパー・ウェルター 級 ( S.W ) 147ポンド超え154ポンド(69.85キロ)まで
13 ミドル級 ( M ) 154ポンド超え160ポンド(72.57キロ)まで
14 スーパー・ミドル級 ( S.M ) 160ポンド超え168ポンド(76.20キロ)まで
15 ライト・ヘビー級 ( L.H ) 168ポンド超え175ポンド(79.38キロ)まで
16 クルーザー級 ( C ) 175ポンド超え200ポンド(90.72キロ)まで
17 ヘビー級 ( H ) 200ポンド超え無制限 ---
日本においては、ウェルター級あたりから重量級扱いになるが、世界を見ればライト級からミドル級は中量級。スーパー・ミドル級あたりから、いや、実質L・ヘビー級以上でないと重量級とはみなされない。
カネロはスーパー・ウェルター級からスタートして、ミドル、スーパー・ミドルの3階級を制してきた。ただ、身長でいえば175cm(実際にはもう少し小さいのではないか?)の彼は、本来はミドル級でも小さい。コバレフとの身長差は公称でも8cmあり、その体格差を埋めるのは容易ではない。ましてコバレフは(なんどもいうように全盛期は過ぎているとはいえ)長年L・ヘビー級の代名詞として君臨してきた正真正銘の実力者なのである。
リスクを冒して走り続けるアルバレス
本メディアにおいては、別にライト級で勝利を積み上げる天才ボクサー ワシル・ロマチェンコを取り上げている。カネロと違って相手の正面に立つことはほとんどなく、巧みなフットワークとハンドスピードで勝負するタイプのロマチェンコだが、スーパースターの条件であるといえる、早いラウンドで倒しにかかるアグレッシブな戦い方については共通している。
フェザー級、スーパー・フェザー級、そしてライト級へとステップアップしてきたロマチェンコだが、その階級的にはさほど大きくないし(170cm)、カネロほどの体格にも恵まれていないので、おそらくはスーパー・ライト級やウェルター級に進出することはないだろう。ということは、ライト級に長くとどまるほかなく、スーパーファイトを組むならライト級で良い対戦相手を探すほかない。
(スーパー・フェザーからのステップアップを考えるスター候補を待つ、ということもあるだろう)
その意味では、カネロは身長こそ高くないが分厚い胸板と、非常に筋肉質な肉体を持っていることは有利だ。体重を上げることで上の階級に行けば(コバレフがそうであるように)自分よりも数センチから十数センチ大きな相手との戦いを強いられるが、かつてのタイソンがそうであったように、軽い階級のスピードを保持したまま体力的に力負けしないボディを作り上げることができれば、十分に対応していける。(背が高いほうが有利だが=リーチが長い方が有利だが、ステップインやハンドスピードの速さがあれば対抗できないわけではない)
だからこそのコバレフ戦なのだが、それでもリスキーなことには変わりない。
2019年3月には、ライト級王者だったマイキー・ガルシアがIBF世界ウェルター級王者のエロール・スペンスに挑んで一蹴されてしまったが、同じような結果になるのか、それともカネロがスーパースターとしての証明を再び世に示すことができるのか。
すでに頂点に達してしまった男が、さらなる高みを目指して挑戦する姿、なんとしてもリアルタイムで目撃したいものである。
アルバレス | 比較 | コバレフ |
---|---|---|
175cm(180cm) | 身長(リーチ) | 183cm(184cm) |
55戦52勝35KO1敗2分 | 戦績 | 38戦34勝29KO3敗1分 |
1990年7月18日 | 生年月日 | 1983年4月3日 |
メキシコ | 国籍 | ロシア |
カネロvsコバレフ。勝敗を予想しよう!
勝敗の行方、あなたならどう見る??
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。