自動車専門誌Motor Magazine、とくにプレミアムクラスの新型車情報を扱う編集部スタッフにとって、誰よりも早くさまざまなニューモデルに試乗できることは最大の特権と言えるだろう。そして時には、2000万円越え当たり前なクルマたちにまつわる不定期連載を任されるなんて幸運に巡り合うこともある。この特別なポルシェ911も、そんな幸運な出会いを果たしたクルマのひとつ。取材前には「こんな化け物、日本のどこで乗ればいい?」なんて斜に構えていたのだけれど、ステアリングを握ってびっくり!それはもう間違いなく夢のような体験だった。(写真:永元秀和)
※本連載はMotor Magazine誌の取材余話です。

GT3 RSの基礎知識。そもそもはサーキットスペシャルなのだけど。

この911、見た目どおりにかなり普通ではない。

そもそも911というクルマは、名車としての高い知名度やとびきりのパフォーマンスの割に、日本の街角の風景にきれいに溶け込みすぎてしまうきらいがあると思う。奥ゆかしさは時に美徳、けれどフェラーリやランボルギーニといったラテン系スーパーカーたちが発散するような、情け容赦のない自己主張ぶりは希薄ではないだろうか。

しかしこのGT3 RSに限って言えば、そんな心配は杞憂に過ぎない。バックミラーに映り込んだ瞬間から、本能的な畏怖を煽るようなオーラが全身からにじみ出ている。いや訂正。そんなオーラが全身からダダ漏れている。

何かとんでもないヤツが近づいてくる!ことが、すぐにわかる。

なにしろこの色だし(リザードグリーンという特別色である)。もちろん色だけで目立っているワケではないけれど。

そのとんでもないところをかいつまんで挙げるなら、たとえばフロントバンパーはぱっくりと割れて「シックスパック」よろしくムキムキの大型ダクトがズラリと並ぶ。ホントは5つでシックスにはひとつたりないけれど。長いノーズ部分には横長のスリットとNACAダクトがさりげない凄みを演出。つぶらな丸目は普通の911とあまり変わらないのに、清々しいほどの威圧感をぶちまけた顔面の作り込みだ。

道を譲れば、その「横顔」もまた只者ではない。ムキムキに盛り上がった前後フェンダーをフラットなラインでつなぐサイドスポイラーは、普通の高速道路を走らせるにはあまりにも地面すれすれで、隣で見ている方が「こすってしまうんじゃないか?」と心配になってくる。

さらに後ろ姿もすごい。とどめと言わんばかりに巨大なスポイラーと肉厚なリアバンパー、そしてまたもや地面スレスレのところで野太いエキゾーストノートを撒き散らすセンターW出しマフラーをこれみよがしに見せつけながら、悠々と走り去っていく。

公道仕様としては明らかにオーバーデコレート。だがこれらはすべて、サーキットでアクセルを全開にするための、デザイン的必然なのだ。誤解なきように付け加えるならこのGT3 RSは、サーキットを走るために無駄なく磨き抜かれた。公道はオマケに過ぎない。ちょっとオーバーな表現かもしれないけれど。

そんな出自を知った上で、あえて申す。

いやいやGT3 RSは、サーキットで走らせるだけじゃぁもったいないですよ。と。

公道でも乗りやすいサイズと速さの「ちょうどいい」バランス

なにしろ911 GT3 RSは、日本の道で乗るならサイズがちょうどいい。

全長4557mmと言えば、日本のファミリーカーを代表するプリウスとほぼ同等。全幅1880mmはさすがにそれなりの迫力があるが、スーパーカーくくりのライバルとしては1900mm越え当たり前のランボルギーニ系に比べれば、駐車場選びに悩みつつ繁華街周辺を迷走する率は格段に減る。

次に、パワーがちょうどいい。

520psとか470Nmとかの「カタログスペック」はこの際、置いておく。本気でそのスペックをフルに味わおうと思ったら、6000rpm以上でアクセルを全開しなければ無理だという。無理だ「という」という伝聞形式になった理由は、私の試乗中は結局、一度も6000rpm超えまで回す勇気がなかったからだ。あるいは、そこまで回す必要がなかった、と言うべきか。

私自身の感触では、おそらくほんの100psぐらいしか使っていないかもしれない。それでも520psぶんの快速ぶり、気持ち良さは確かに実感できたような気がする。