自動車専門誌Motor Magazine、とくにプレミアムクラスの新型車情報を扱う編集部スタッフにとって、誰よりも早くさまざまなニューモデルに試乗できることは最大の特権と言えるだろう。そして時には、2000万円越え当たり前なクルマたちにまつわる不定期連載を任されるなんて幸運に巡り合うこともある。この特別なポルシェ911も、そんな幸運な出会いを果たしたクルマのひとつ。取材前には「こんな化け物、日本のどこで乗ればいい?」なんて斜に構えていたのだけれど、ステアリングを握ってびっくり!それはもう間違いなく夢のような体験だった。(写真:永元秀和)
※本連載はMotor Magazine誌の取材余話です。

毎日乗っても、たぶんちょうどいい、と思うと思う。

さらに、おもてなしがちょうどいい。

とりあえずキャビンの雰囲気もまた、ルックス同様只者ではない。チタニウム製ロールケージに守られた空間は、このカラフルなグリーンをしても隠しきれないスパルタン感を生み出している。バケット形状のシートも含めてサーキットを攻めるためのお膳立てはすべて備わっている。

一方で目線を移せば、インストルメントパネルまわりは意外に普通だ。ひと昔前ならセンターコンソールには油圧計とか水温計とかのサブメーターがズラリと並べられて、いかにもヤル気をそそる「男の仕事場」的演出が施されていたかもしれない。けれど、GT3 RSにはこれ見よがしな「武装」感はない。

代わりに付いているのは、4.6インチという最近ではちょっと珍しいくらい控えめなサイズのタッチスクリーンディスプレイ。パワーマネジメントやGのセンシング、タイヤプレッシャーといった「走り屋さん」向けの詳細情報はここから手に入れることができる。普通の人には、マニアックな横G発生状況よりも、カーナビゲーションがついているほうがたぶんありがたい。

専用チューンが施されたボーズのサウンドシステム×12スピーカーと大出力サブウーファーは、必聴。トータル550Wのハイスペックで極上のリスニング空間を作り出している。排気音やエンジン音そのものはやや大きめに入ってはくるが、それすらもハーモナイズされた音楽のように聞こえてくる……ような気がするくらい、気分が高揚する。

そして最後に、乗り心地がちょうどいい。

普通の(本当はけっして普通ではないスーパースポーツなんだけど)911に比べると、どれだけ言葉をオブラートで包んだとしてもやっぱり乗り心地は硬い。肉の薄いバケットシートは、それなりに突き上げ感をダイレクトに伝えてくる。

けれど、その乗り心地に不快感が少ないのは、剛性感の高いボディ全体がガッシリと振動を受け止め、違和感を生むブレを抑制しているから、だという。ここでも伝聞形式になった理由は、ライターさんに聞いたから、にほかならない。

「足が硬い=乗り心地が悪い」に直結していない。それどころか、無駄にボヨボヨとした上下動のなりビシっと安定した姿勢は、どんなシーンでも頼り甲斐に溢れた、ポルシェらしい乗り心地を楽しませてくれる。

カイエンにもタイカンにも、絶対負ける気がしない

このGT3 RSを選ぶべき大きな理由が、実はもうひとつある。それは、ポルシェのほかのどんなモデルが横に並んだとしても、負ける気がしない、ということだ。

名前は同じ911はもちろん、サイズとオシの強さでは最強のカイエンや、次世代ポルシェを象徴する期待のニューフェイス、タイカンにも引けを取ることはない。単純だけど、これって大事なことではないだろうか。お金に余裕があるのなら、迷わず一番凄いやつ、が正解だと思う。

乗りやすさも乗り心地も、インフォテインメント系の充実ぶりも含めて、サーキット専用だからというエクスキューズを感じさせることはない。驚くほどの日常性能の高さは、毎日通勤に使っても許されるレベルにあると思う。

夢見心地で楽しんだテストドライブの後、「このクルマでロングツーリングに行ってみたい」ととあるライターに相談してみた。明確に変態扱いされてしまった。心外だ。

さて、ここまで積極的にオススメしておいてなんだが、「買おっかな」と真剣に悩み始めているあなたに、アドバイスがひとつある。購入を決めたなら納車日までにスクワットを励行しておこう。低い車高とバケットシートは、乗り降りでけっこう腰と膝にくる。本誌編集スタッフの実体験だから、間違いない。

いや、「乗り降りするだけで足腰が鍛えられる」みたいな副次的効果も期待できるか。せっかく3000万円オーバーの大枚をはたくのだ。GT3 RSと暮らすスーパーカー乗りならではのとんがったライフスタイルを、とことんポジティブシンキングで楽しんでみてはいかがだろう。

もしも私がこいつを買ったなら、まずは日本一周から始めたい。なにしろもとは取らねば。うん。

●ポルシェ911 GT3 RS主要諸元
全長×全幅×全高=4557×1880×1297mm/ホイールベース=2453mm/車両重量=1470kg/乗車定員=2名●エンジン=水平対向6気筒 DOHCツインターボ/総排気量=3996cc/ボア×ストローク=86.5×82.0mm/圧縮比=13.3/最高出力=383kW(520ps)/8250rpm/最大トルク=470Nm/6000rpm/燃料・タンク容量=プレミアム・64L/C02排出量(EUドライブサイクル)=291g/km/トランスミッション=7速DCT/サスペンション形式=前ストラット・後マルチリンク/タイヤサイズ=前265/35ZR20・後325/30ZR21●ブレーキ4輪Vディスク/ボディカラー=リザードグリーン/最高速度=312km/h/0→100km/h加速=3.2秒/車両価格=26,920,000円

●試乗車装着オプション【オプションを含む取材車価格=34,136,000円】
リザードグリーン(ボディカラー) 2,657,000円、レザーインテリア コントラスト/ブラック 551,000円、ヴァイザッハパッケージ(ロールケージなし)2,657,000円、フロントリフトシステム 541,000円、フロアマット 20,000円、スポーツクロノパッケージ 87,000円、ポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキ(PCCB) 1,668,000円、ブラック塗装仕上げ(シルクグロス)ホイール&グリーンリム 213,000円、LEDメインブラックヘッドライトPDLS含む 479,000円、12時マーカーグリーン 44,000円、アルカンターラサンバイザー 75,000円、アルカンターラ仕上げシートベルトアウト 65,000円、カーボンドアシルガード(発光式) 76,000円、アルミペダル/フットレスト 91,000円

神原 久|Hisashi Kambara
Motor Magazine誌など自動車雑誌の編集者としてはや30年が経過。「寄り道」と「回り道」が好きで、自動車以外にも五輪写真集や美人アスリート本、外国人ジャーナリストの文化論的単行本など、さまざまなジャンルの媒体編集を担当。特技はバレエ。趣味はゴスペルとバドミントン、配信動画鑑賞。