長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。年とれば勝手に大人になると思っていたのに、なぜか成長しない自分に苛立つ毎日。
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第48話「癪でござんす」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部

竹藪の中で見つけたのはかぐや姫ではなく、バイク乗りの女だった

その女を見つけたのは偶然だった。友人が暮らす山中の家に向かうため運転していた車のヘッドライトに、道路に転がったバイクが浮かび上がったのだ。車を停めて付近を見渡すと、竹藪の中で絡まっていたヘルメット姿の女があった。

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将来への不安と現状への不満は未だに

聞けば女は一人で走りに出たはいいが、突然飛び出してきた猪を避けようとして転んだのだという。

私は女を竹藪から逃れる手伝いをして、救急車を呼んだ。幸運にも女はかすり傷だけで、重篤な怪我はないようだったが、人生というやつは何があるかわからない。

テレビ局を辞めて、自由気ままな人生を選んだつもりだったが、思うようには生きられない。なんとも言いようのない将来への不安と現状への不満は未だに続いている。いたるところに猪が潜んでいる、そんな感じだ。

転けて救急車で運ばれていく女を見送りながら、私は漠然とそんなことを考えていた・・・。

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。