新型のカタナで旅に出た男。日帰りのつもりが夕日の綺麗さに、つい野宿を繰り返して・・・。
オートバイ2020年2月号別冊付録(第86巻第3号)「SUNRISE SPEED」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

何かとツカレる世の中を避けるようにツーリングに出た男

この世の中、何かとツカレるようにできているらしい。
ため息がでる・・・。

そんな毎日沈殿していくような疲れを払い落とそうと、俺は新車で買ったスズキのカタナで日帰りのつもりでツーリングに出た。ながめのいい所でコーヒーを淹れよう。そんな気軽な気分でバイクに乗ったはずだった。

ところがヘルメットのシールド越しに見えた夕陽のあまりの美しさに俺は心を奪われ、そのまま帰る気をなくしてしまったんだ。どこかで野宿でもして一泊しよう。

摩擦は必要だが、人との摩擦はできれば避けたい

テントを張った俺は、さっそく夕飯の手配をしていた。(そもそも野宿の準備をしてるじゃないかって?まあそう言うなよ、ほんとに出かけるときにはちょっとした日帰りツーリングのつもりだったんだ)

熱いお湯を注げばすぐに食えるインスタントの八宝菜を食いながら、俺はふと『摩擦がないと困るものってなんだろな』と考えていた。

ネジ、タイヤ、ボタン、ジッパー・・・なにもかも事行かなくなる。摩擦ってのは案外大事なんだ。

とはいえ・・・。
だが人との摩擦はないほうが楽だ。

そうだろう??

今夜は帰ろう・・・帰れなかったら、明日は帰ろう。全てはそうさ、夕陽しだいさ

今夜は帰ろう。

そんな埒も無い決意をした俺は、翌朝テントをカタナにくくりつけると迷いもなく走り出した。

ほどなくして、俺は道端で倒れたバイクと、女性らしいライダーの姿に気づいた。どうやら転倒しちまったらしい。

さて、コケたライダーをみたあなたはどうする?

人との摩擦は・・・やっぱ避ける?

楠雅彦 | Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。