ロシア発・世界唯一のサイドカー専業メーカー「ウラル」。その魅力を広めるべくウラルジャパンCEOとして活躍するブラド氏は、理想を実現するために日々努力を欠かさない。その成功の影には、ブラド氏が生涯を通して嗜む「武術」があった。Vol.2ではブラド氏が愛するフィリピン武術・カリについて紹介してもらった。

武術と格闘技の違い

今回はカリ(アーニス、エスクリマとも呼ばれる)というフィリピン武術について語らせていただきます。まずは実践的な武術と格闘技の違いについてお話しましょう。

例えとして一番近いのは、エアガンと実銃の射撃です。
エアガンでも射撃の練習はできますが、反動もマインドセットも危険さも実銃とはまったく違います。エアガンはサバイバルゲームなどのように互いに撃ち合って遊ぶこともできますが、実銃では不可能です。殺し合いになってしまいます。だから実銃の練習には大きな責任が伴います。

武術も同じで、簡単に相手を死なせてしまう可能性を秘めています。どんな状況でも生き残って自分と他人の身を守るための稽古と、試合に勝つための稽古は根本的に違います。

ルールの中で最善を尽くす格闘技と、ルールのない世界で命を掛ける武術、といったところでしょうか。

戦うではなく収める

実戦的な武術を習うと、体、心、意志の訓練のほかに、責任感も養われます。毎日危ない技の稽古をすればするほど、“絶対に使わない方がいい”ことがわかってきます。

本当に強い人はいざ戦うとなったときに相手をボコボコにした人では無く、手を使わずに相手の怒りを丸く収めた人です。

合気道の達人である塩田 剛三(しおだ ごうぞう)先生がおっしゃった通り、「一番強い技は自分を殺しに来た相手と友達になること」なんですね。

しかし、精神的な稽古に傾きすぎると、マーシャルアーツの『マーシャル」、つまり『武』の部分が抜けてしまい、『アーツ』、要は「踊り」にしかならないです。なのでバランスをキープすることが大切なんです。昔から武士の仕事は他人に優しく、自分に厳しく、激しい稽古をして、平和を守ることなのです。

フィリピン武術カリ

さて、今回ご紹介するカリというのは古代から盛んになっているフィリピンの多流派武術の総合的な名称です。

元々、フィリピンの各部族間にはさまざまな武術が存在していました。中世にアラブ族やスペインなどとずっと戦ってきた経験から、戦場で一番効果的な技術が自然と生まれてきたんです。当然ながら、アラブやスペインが戦場で使う武器への対処なども、その後のカリの形成に多大な影響を与えました。

フィリピン武術の基本は竹槍、棍棒、刀などの武器の操作です。しかし、他の武術と異なるのは、武器や素手での技術が共通していること。つまり、武器を持っても持たなくても、基本的に同じような動きで戦うことができるんです。

フィリピン人は小柄なので、力より動きの速さと正確さが重要とされてきました。また、相手の動きをうまく使って、バランスを崩す技や、相手の武器を奪ったり払い落とす技術(ディスアーム)が発達しています。

カリで使う武器

現在、カリで使う主な技術は以下のような物があります。

・シングルスティック(ソロバストンとも呼ばれる)
バストンという60cmほどの短いラタン製の棒を使う技術です。片手で武器を持って、反対の手でディスアームや関節技などを使うことが多いです。

・ダブルスティック(ダブルバストン)
2本の短棒を使った技術

・ナイフ
フィリピンは元々刃物文化の国ですから、ナイフファイティングが盛んです。現在、フィリピン軍や警察の訓練だけではなくて、アメリカやロシアのスペシャルフォースなどでも取り入れられ練習されています。

・プンタ・イ・ダガ(エスパーダ・イ・ダガ)=双刀術
スペインのフェンシングに影響された剣とナイフの二刀流で戦う技術

・マノ・マノ(徒手空拳)
素手で戦う技術です。拳だけではなく、開いた手、肘、膝、蹴りなども使います。足の技は基本的に腰より下にしか使いません。

関節技、投げ技なども用います。相手が必ず何かの武器を持っているという考え方ですから、グラップリング(組み技)は危険と考えられていて、ほぼ使われていません。手で武器を持つことに慣れたら、ペン、スマホ、ペットボトルなど即興武器を用いた練習も行います。

いま世界中がカリに注目している

結論として、フィリピン武術には対人戦闘で必要な要素がすべてそろっています。武器があっても無くても、相手が一人ではなくても戦える武術なんです。

「でも日本は安全な国だから、ナイフなどの練習は要らないだろう」と思う方もいらっしゃるでしょう。でも振り返ってみてください。最近のニュースを見ていると、刃物を使った殺傷事件などが頻繁に起こっていることを。

もし気の狂った人に攻撃されたら、フリーズせずに自分の身を守ることができるでしょうか? もちろん最初に言ったように、人生で一回も喧嘩しないのがベストです。ただ、自分や他の人の命を救うために、いざという時の備えはあったほうがいいでしょう。

カリはブルース・リーが学んだ武術の一つでもあり、ブルース・リーの映画のなかでも、カリの技を使用するシーンが見られます。最近では『バイオハザードII アポカリプス」、「イコライザー」、「007 慰めの報酬」などのハリウッドアクション映画でフィリピン武術の動きが流行ってきています。

私も夜西敏成監督の2019年作『Steel Angie』に出演させてもらい、ファイティングシーンではカリのスティック技を使用しました。

Japan Filmfest Hamburg 2019 Steel Angie スティールアンジー

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私が稽古しているのはMutya Filipino Fighting Artsという流派です。
ここで重要なのはMartial Artsでは無くて、Fighting Artsということ。意味は、ファイトコンセプトの武術であるということです。

性別、武術経験の有無、年齢問わず、誰でも楽しく稽古できる実戦的な武術であり、開祖は私の師匠であるグランドマスターMildred Mutya Nakamura(日本語名:中村愛美師範)です。小さい頃からフィリピンで多流派の武術の練習をしていて、世界的にも武術達人として認定されています。

Mutya Filipino Fighting ArtsのグランドマスターであるMildred Mutya Nakamura。日本語名は中村愛美 師範です。

小柄な女性でありながら、フィリピンの大学の犯罪学部や警察学校・刑務官養成所において格闘術・射撃などを指導していました。現在は日本において武術指導以外にも英語教師として活躍中です。

興味のある方は、ぜひMutya Filipino Fighting Arts Academyの公式ウェブサイトをご覧ください。

次回は、私がフィリピン武術と併せて練習している沖縄の武術について紹介していきたいと思います。

ブラド|Volkhin Vladislav
ロシアのウラジオストク市生まれ、2012年から日本滞在。Ural Motorcyclesの日本法人・ウラルジャパン(株)の代表者。沖縄&フィリピンの武術愛好家でもあり、俳優、フリーランスモデルも務める。小さい頃から好きなバイクと武術を本業にしている関西弁混じりの日本語が喋れるロシア人。
Instagram:vlad_volkh