一生サラリーマンでいるか、起業を目指すか。とにかく将来への漠然とした不安でソワソワする26歳。だけど目下の心配事は去年出会った彼女と再会できるかどうかなんだ。
オートバイ2020年3月号別冊付録(第86巻第5号)「SUNRISE SPEED」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

不安を抱えてNinja1000に跨がるボク。

気がついたら26載。いい大人だよな。
去年まではなんだか根拠のない勢いがあった気がするんだけど、今のボクは自信をなくして不安に苛まれる弱々しい若造だ・・。

「このままでいいのか・・・考えちゃって」
飲みながら先輩社員に相談しても、「小リコウに考えなくてもヨ!」と笑い飛ばされる始末。

ボクの相談事なんて気にもかけない先輩は「梅割りバターぬきで!」とオーダーする。
ボクはいったいどうしたらいいんだ。先輩は呆れた顔で「知らねェヨォ」と言うだけだ。

去年の出会いに思いを馳せるボク・・・

途方に暮れながら、ボクは去年の夏に出会った素敵な女の子のことを思い出していた。
ツーリングに出かけた野宿先で偶然知り合った、バイク乗りの女の子だ。ひとりでソロキャンプしてる女の子なんて、なんだかイケてる。ボクは深く考えることもなく、将来のとりとめない夢を大きく盛って彼女に話した「とりあえずバイクで世界一周して、それから起業したいンスよォ」。

ふーん・・・とだけ言った彼女とは、それ以来会ってはいない。春にまた同じ場所で会いたい、と告げたものの、約束と言うにはちょっと儚い、弱々しい決め事だった。そういえばもうあれから半年だ。
ボクはどんどん酔っていく先輩の赤い顔をみるでもなく、彼女との再会を実現するための計画を考え始めていた。

まずは行動だ。彼女に会うべくNinja1000に跨ったボク

春が近いとは言ってもまだまだ寒いし、朝方は昏い。
ボクは半年前に彼女と出会った場所に向かうべく、眠い目をこすりながら愛車のKawasaki Ninja1000に跨った。

Photo : Matukawa Shinobu

www.kawasaki-motors.com

果たして彼女は来てくれるのか?ボクの不安を消してくれる女神になってくれるのか?

ふーん・・・とだけ言った彼女とは、それ以来会ってはいない。春にまた同じ場所で会いたい、と告げたものの、約束と言うにはちょっと儚い、弱々しい決め事だった。そういえばもうあれから一年だ。
ボクはどんどん酔っていく先輩の赤い顔をみるでもなく、彼女との再会を実現するための計画を考え始めていた。

ボクはNinjaを走らせた。道の駅で休憩したりしながらも、目的地に向かってバイクを走らせた。
バイクに乗っている間は、胸を締め付けるような不安を覚えることはない。ただ無心にバイクを走らせたんだ。

ほどなく目的地に近づいたボクは、道の脇に白く積もる雪に目を見張った。

まいったな、今年は雪がのこってら・・・
去年彼女とテントを張った場所にバイクで乗り付けるのは無理そうだった。

歩いていくしかないか。
ボクはNinjaを路肩に停めて、テントを入れた荷物を背負うと、雪の向こうへと向かった。
雪が残るが、テントを張るスペースはある。彼女が来ることを願いつつ、ボクはテントを準備して、コーヒーを煎れ始めた。

果たして彼女との再会はあるのか??

楠雅彦 | Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。