インドで迷子になってしまった、口の利けないパキスタン人少女と、彼女を親元に戻そうと奮闘するバカ正直なインド青年。2人の珍道中は、政治や宗教の違いを超えて多くの人々の善意や愛を湧き起こしていく。
インド映画らしい、唐突に始まる歌と踊りには失笑させられてしまうものの、少女の愛らしさと、信条の違いに関係なく顕れる人々の優しさに心を打たれる、良い作品だ。

「バジュランギおじさんと、小さな迷子」1.18公開 予告編

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ストーリー

インドで迷子になった、パキスタンの女児シャヒーダを偶然保護したのは、猿神ハヌマーンを信奉する青年パワン。バジュランギの愛称を持つ彼は、迷子のシャヒーダがイスラム教徒であることを知って困惑するが、彼女を救いたいと願う気持ちにはいささかの変化はなかった。

なんとかしてシャヒーダを親元に返そうとするパワンは、政治的な対立を深めるインドとパキスタンの国家の軋轢を知りながら、やがて自らシャヒーダを伴ってパキスタンに渡航し、彼女の生まれ故郷を探し出そうと決意するのだが・・・。

本作は、インドとパキスタンが持つ近親憎悪を象徴する紛争地帯カシミール地方(韓国で言えば38度線のようなエリア)を舞台に、国籍や信仰の違いに関係なく、少女を救うために命を賭けるインド青年の底抜けの優しさと、彼の美しい心根に共感して彼らを助けようとする多くのパキスタン側の人々を描くことで、心温まるヒューマンドラマであると同時に、同胞愛の大切さを訴える政治的メッセージを強く持った作品だ。

あまりにも愛らしい少女の存在が、パワンの決意に説得力を与える

口の利けない少女シャヒーダを演じるのは、5,000人ものオーディションから選ばれた子役、ハルシャーリー・マルホートラ。役柄の設定と同じ6歳の彼女の可愛さは圧倒的で、どんな悪人でも救いの手を伸ばしてしまうだろうと思わせるほどの愛らしさを発揮している。

主人公のバジュランギを演じるのは人気俳優サルマン・カーン。従来はアクションスターとして人気を博しているらしく、頑健そうな肉体は存在感抜群だが、本作では(アクションではなくインド映画らしいダンスと)実直な青年らしい朴訥な演技を見せている。

前述のとおり、本作はインドとパキスタンの間に横たわる激しい対立を背景に、国家間の緊張関係の融和を願う内容になっていて、それはかなりあからさまな(ある意味、稚拙なほどの)描写になっているのだが、それはそれで嫌味でもないし、特に多くの日本人にとっては(よく知らないという理由であっても)気にもならないだろう。
そうした主張やメッセージがあるとしても、とにかく迷子になった少女のために必死になるパワンの優しさと、彼の裏表のない行為(厚意)に打たれて2人を救おうと動く人々の想いはストレートに伝わってくるからだ。

ラストシーンは誰もが期待し、そうなるだろうと想像するだろう結果になるが、そんな温かい期待を裏切らないからこそ、本作は多くの人に受け入れられる良い作品になっていると言えると思う。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。