新型コロナウィルスまたは新型肺炎と呼ばれる伝染病、COVID-19の新たな名前を得てなんだかケミカルな恐ろしさを増したが、「コロナ」というちょっと可愛らしい?響きがこれほどまでの流行を生んだ気もしないでもない(本当はコロナウィルスというのは、1960年代から存在が知られているわりとメジャーなウィルスの総称で、SARSもコロナウィルスの一種だし、多くの風邪の原因にもなっていて、今回のCOVID-19はあくまで新種のコロナウィルス、ってことなんだけど、そんなことは多くの人には関係ないということらしい)
それはともかく、疾病は別として、なにかと流行りには乗っておくのが若さを保つ秘訣、というわけで今年の春夏に向けて挑戦しておくべきファッショントレンドをご紹介しよう。
それはズバリ、体を鍛えて健康を維持しながら(そうすればCOVID-19も怖くないし?)、その健康美をどんどんアピールしていこう!という試み、アスレジャーです。
まだまだあと数年間は拡大しそうなトレンド
少し前に流行ったノームコアを覚えておられるだろうか。
「ノーマル(Normal)」と「ハードコア(hardcore)」を組み合わせた造語である点ではアスレジャーに近いが、ノームコアとはノーマル(普通)の究極、つまり必要最低限のシンプルさでまとめた着こなしのこと。Tシャツとデニムとスニーカーだけ、という具合だ。
Apple共同創業者の故スティーブ・ジョブズやFacebook共同創業者のマーク・ザッカーバーグの出立がその代表例として引き合いに出されることが多いが、いつも同じ格好をしているようにみえるが、清潔感は保つため、毎日新しいものに着替えはするが、そのために同じような服を何枚も買うという、よくわからない努力によって支えられている?
オシャレに見せるために無理して高いものを買ったり窮屈さを我慢したりせずに、リラックス感を優先するというスタイルだったが、下手に実行すると単なる部屋着の延長に見られるリスクがあり、かなり難易度が高い(そもそもオシャレだったり、カッコよくないと似合わない)型だったため、一過性の流行に終わってしまった感がある。
ジョブスやザッカーバーグが同じ服を何枚も用意していつも同じ格好をするのは、毎日何を着るかというコーディネートを考えるための時間を節約するためというが、多くの普通人にとっては、今日は何を着ようと迷うのは楽しみではあっても無駄な時間ではないと思うが。その楽しみを放棄するのは老化、もしくは退化であると私は思う。
その点、アスレジャーは、リラックスして肩肘張らずにファッションを楽しむ、という傾向はノームコアと同じながら、部屋着ではなくジムウェアの要素、スポーツの要素を取り入れていることによって、多くのスポーツウェアが参入して大きな市場が作られている(それ用に開発された、専用のウェアやシューズがたくさん販売されている)ので、今後ますます一般化することは間違いないトレンドなのである。
アスレジャーはファッションであるより前に、生き方そのもの
アスレジャーは基本的にはストリートカジュアル。ヒップホップやR&B、パンクロックなどの音楽カルチャーを取り込むと同時に、バスケットボールなどのスポーツカルチャーをも柔軟に包含しつつ成長してきたストリートファッションに、(例えは悪いが)合成麻薬のように科学的・人工的(かつ安全)に組成されたジムでのトレーニングシーンが染み出して、今の型を作り上げてきたと言える。
具体的には、吸湿性の良い素材で作られたTシャツやスウェット、ジョガーパンツ、スニーカーなどを、それまでのシャツやデニムに置き換えていくのがセオリー。
そろそろ春を迎える季節であれば、レザージャケットとスウェット地のジョガーパンツにスニーカーを合わせるのは鉄板になるだろう。
アスレジャーという概念は、2016年あたりからさまざまなメディアで散見されるようになってきていて、なにも今に始まったコンセプトではない。また、ファッションというより、ライフスタイルであるから、ちょっと真似して似たような格好をしてみました、となると、結構ひどい火傷をする羽目になりそうだから、気をつけるべし。ノームコアブームに乗って、部屋着のスウェット姿のままコンビニに行って“汚いおじさん”と不審な目で注目を浴びたことがある人はうっかり手を出さない方がいい。
多くのファッション誌やファッションメディアで事例を目にすることはできるし、アスレジャーと検索してみれば、必要最低限の情報は得られるだろう。
ただ、ファッションスタイルとしてのアスレジャーに手を出す前に、まずはランニングを始めるなりジムに通い始めてみるなり、緩んだカラダを絞ることから始めるべきだ。羊頭狗肉ではダメ、中身が伴わないと、アスレジャーにならない(単に緩めの服を着た中年男になってしまう)ので、ライフスタイルとしてのアスレジャーを身につけることを優先して、それからその鍛えた肉体に見合う服や靴を選ぶようにしよう。そうでないと、あなたの怠惰がトレンドそのものを打ち壊し、台無しにしてしまうかもしれない。
楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。