国益を守る、という大義名分の下、メディアを管理する内閣情報調査室に勤務する青年官僚と、真のジャーナリズムを求めて闘う女性新聞記者が、秘密裏に進められる政府の陰謀の存在を白日に晒そうとするが・・・。
ジャーナリズムとは何か?日本に真の民主主義は存在するのか?という問いに真っ向から挑んだ野心作。

第43回日本アカデミー賞主演男優賞・主演女優賞受賞、おめでとうございました

現実に起きたさまざまな事件をモチーフとして、日本のジャーナリズム事情を描いた問題作

日本版CIAとも呼ばれる内閣官房直下の組織、“内調”(内閣情報調査室)に所属する青年官僚と、真のジャーナリズムを求めて闘う新聞記者が、政府主導の謎のプロジェクトの非合法性を暴こうと奮闘するが、現政権の安定だけを目論む者たちに圧力をかけられて・・・。

伊藤詩織さんの性被害事件や、加計学園問題など、現実に起きているさまざまな事件が(もちろん架空の事件として描かれてはいるが、観客には容易に想起できる描かれ方をしている)政治的圧力の実例として関係づけられていることでも話題になった作品。

職務と倫理感の狭間で悩む青年官僚を松坂桃李、未熟すぎる日本の民主主義やジャーナリズムの壁に妨げられながらも理想を追う女性新聞記者を、韓国女優のシム・ウンギョンが熱演している。

忖度ばかりの日本の状況に一石?

政府の不正を暴こうとするジャーナリストの奮闘を描いた映画は、アメリカではよくある。
また、明らかに架空の事件として描かれるものだけではなく、実際に起きた事件に実際に関わった者たちを描いた作品も多い。
(例えば、下の『ペンタゴン・ペーバーズ』のようにウォーターゲート事件に関わる映画は本当に多い)
また、そういう骨太な映画が真っ当な評価を受けやすい環境も整っている。それ自体がガス抜きされているだけと、言えるかもしれないが、それでも言うべきなら言いたいことを言ってやる、政治の横暴を糾すのがメディアだ、という反骨精神の存在は確かにある。

本作は、政権の安定こそが日本の民主主義の絶対的必要事であり、そのためになら事実の歪曲も辞さないという信念を持つ組織と、そこに所属する者たちの工作が丹念に描かれている。

人死も出るが、それは真綿で首を絞めるような圧力に耐えかねた者たちの落伍であり、物理的な暴力による殺害ではない(落伍させようとする意図は同じだが)。
隠蔽する側もされる側も、訴える手段としてはメディア操作であり、操作もしくは撹乱がしやすい場としてソーシャルメディアもよく登場するが、同時に嘘であろうと真実であろうと、信頼性の高いメディアとして新聞や雑誌がより重く扱われている印象を受ける作品だ。

ちなみに、最も記憶に残るシーンは、伊藤詩織さんとよく似た女性ジャーナリストがレイプ被害者として行った記者会見の現場で、ニューヨークタイムズの記者がヒロインの女性記者に対して、日本のジャーナリズムはひどいよね的な発言をするところだ。ジャーナリズムに携わる者なら胸を抉られるほど屈辱的な描かれ方だと思った。
(dino.networkはジャーナリズムではなくエンターテインメントマガジンです)

映画『新聞記者』6.28(金)公開/予告編[内調 ver.]

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小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。