宇宙探索の歴史的傑作『2001年宇宙の旅』を思い起こさせる、静謐なムードで進むスペースオペラ。
絶対的な孤独の中で、固い意志を感じさせる主人公をブラッド・ピットが熱演。

『アド・アストラ』2019.12.18デジタル配信/2020.1.8ブルーレイ&DVDリリース

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『2001年宇宙の旅』を思い起こさせるような静かなスペースムービー

かつて、地球外知的生命体の発見を目指したリマ計画。そのリマ計画の責任者として参加し、16年前に太陽系の極地で行方が分からなくなった宇宙飛行士を父に持つ主人公ロイ(ブラッド・ピット)。
彼は他人との関係を断ち、感情を面に出すことのない、常に冷静な人物であり、長じて父の跡を継ぐ有能な宇宙飛行士となっていた。

ある時、彼は所属する米国宇宙軍の上層部に呼ばれ、現在 サージと呼ばれる大規模な放電現象が多発しており地球の存亡に関わること、そしてそれを引き起こしているのはリマ計画で使用されていた反物質装置の可能性が強いこと、そして その装置を作動させたのは失踪したはずのロイの父親であると思われることを告げられる。

死んだはずの父が生きている?という衝撃の事実に心中動揺するロイだったが、サージを止めるために、宇宙に向かい父親とコンタクトをするミッションを課せられる。
果たして本当に彼の父親は存命しているのか。そして、ロイはその父親と邂逅を果たすことはできるのか?

宇宙探索の歴史的傑作『2001年宇宙の旅』を思い起こさせる、静謐なムードで進む 息苦しいまでのリアルさを感じさせるスペースオペラ。

孤独の中で生きる男の憂鬱を強く感じさせる作品

主人公ロイは、感情を面に見せることが少なく、張り付いたような冷静さを漂わせる男だが、実際にはうまく人間関係を築くことができない不器用さと、それによって内に抱える孤独と寂寥を人に悟られまいと虚勢を張っていた。
父親とは、幼い頃から(物理的にも地球と宇宙という凄まじい距離感で)離れて暮らしていたし、知的生命体を探すというミッションに人生の全てを賭けるがゆえに家族を放置していた父親に対して、強い尊敬の念と共に強い怒りや怨みを感じざるを得ず、そんな複雑な想いが彼の強い孤独を作り出していたのだった。

本作は宇宙を舞台にしながら、母と自分を捨てて 己の生き甲斐にのみ忠実に動いた父親に対する憎悪と、自らに課した為すべき仕事に執着する男への憧れが入り混じって混乱している息子が、とにかく父との邂逅を求めて前に進んでいく、一種のロードムービーでもあるのだ。
自分にわかりやすく愛情を注いでくれる優しい父親を求めながら、家族を顧みず自分の目的追求に没頭する男の背中にも惹かれてしまう。父と子の関係はとかく複雑である。

ちなみに、本作は恐ろしく音が少なくアクションもあまりない静かな映画だ。それだけに集中を欠くと途端に興味を失って(宇宙空間に放り出されるかのように)、あっという間に無限の退屈と眠気に引きずり込まれかねない笑。
多くのシーンを宇宙服姿(ということは着膨れしたような特殊なスーツと、ヘルメットを着用した姿)でいるがゆえに、ほとんどの演技を表情と視線でしか行えない中、他人には話せない胸の内の孤独を、深い憂鬱を湛えた目で表現し続けるブラッド・ピットに魅了されれば、最後まで緊張を途切らせず、本作の深いテーマにはまり込むことができるだろう。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。