長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。行きつけのカフェ炉煎のマスターの孫のソノミと急接近中、なんだけど??
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第53話「帆を上げろ」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部

新車で飛ばしてたら、あっさり抜かれちまって話さ

オレ、ヒトシ。
愛車を大学で盗まれてからずっと、松ちゃんのSR借りてたんだけど、ようやく自分のバイクを買ったのよ。それが超バカっ速でさ、こりゃ無敵だわと思って飛ばしてたらさ、さくっと抜かれちまったわけ。

しかもそれが女でさ、一気にやる気なくして松ちゃんのドヤに着いたらさ、そいつがそこにいたってわけよ。驚きだろ?

誰がみても一目惚れしたろ、ヒトシ?

そしたらさ、さらに驚きなのはさ、その女ライダーがヘルメット脱いだら、すげえいい女なわけよ。
驚きだろ?オレ、もう声も出ないくらい驚いちまったよ。

そのコ、ソノミは愛想のかけらもなくて、笑顔ひとつ見せやしない。もそっと笑った方がより可愛いんじゃないかな、とオレは思ったね。
すごい無口な女でさ、普段はわりとしゃべる方のオレもついつい釣られて口をつぐんでたよ。

ソノミは松ちゃんの知り合いらしいが、たいした話をするわけでもなく、なんとなくその辺で時間を潰して帰っていった。

オレたち食事の準備をしてたし、食ってかないのかよ?て聞いたんだけど、(腹は)空いてないの一言だけ残して行っちまった。

まったく変な子だよ。危ない抜き方でオレ、転けそうになったし。

ん?なんだよ?松ちゃんが妙な表情でオレを見てる。なんだよ、いったい??

なんだよ、お前、また悪いくせかよ?w

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。