ウサギ狩で生計を立てる原始部族が、青銅を使いこなし始めたブロンズ・エイジ・シティの軍隊によって駆逐されかける。原始部族の少年ダグは、自分たちの故郷の奪回を賭けて、ブロンズ・エイジ・シティとのサッカー試合に挑むことを決意するが、果たして原始部族の面々にサッカーを覚えさせることはできるのか?
『ひつじのショーン」などで知られるアードマン・アニメーションズ制作のストップモーション・アニメーション。主人公のダグの声を演じているのは、ファンタビシリーズで日本でも知名度を一気にあげたエディ・レッドメイン。

クレイ(粘土)人形たちが見せる温かな表情が魅力

ストップモーション・アニメーション(Stop motion animation)とは、静止している物体を1コマ毎に少しずつ動かしカメラで撮影し、あたかもそれ自身が連続して動いているかのように見せる映画の撮影技術、技法。アニメーションの一種であり、SFXの一種。コマ撮り(コマどり)ともいう。

本作は上述のように、クレイ(粘土)人形ならではの質感と温かく豊かな表情が魅力な、アードマン・アニメーションズ作品。原始人がサッカーの試合をする、というユニークな発想で生み出された本作は、自分たちよりも進んだ文明に呑み込まれて滅亡していくであろう旧世代が見せる最後の抵抗をテーマにしている(石器時代を引きずるダグたち原始部族に対して、敵となるブロンズ・エイジ・シティの人々は、青銅を使った武具などを使いこなす青銅器時代の新興民族)。

弱き者は駆逐され新たな文明に塗り潰されていくのが自然の理ながら・・・

進んだ文明を持つからといって古い価値観に縛られた人間たちを、劣等民族であるかのように扱って良いわけはないし、啓蒙しようとするのではなく問答無用に駆逐して良いわけはない。現代に生きる我々はそういうヒューマニズムによってある意味洗脳されているわけだが、進化の道理を考えれば、高度な文明が生まれれば、古い文明を破壊し、上書きしようとするのは自然の理である。

本作において、主人公のダグをはじめ、原始部族たちは、新たに台頭してきた青銅を使いこなす新部族に対してなすすべなく追い払われるし、そのことをやむを得ないと最初から諦めているフシがある。原始部族の中でも進取の精神を持っていたと思われる少年ダグでさえも、自分たちを圧倒した敵の力の根源≒青銅製の武器を取り入れようと考えることはせず、たまたま見た目新しい競技であるサッカーを勝負の道具として利用しようと考えるのだが、それも(自分たちが住んでいた地域に残る壁画に、自分たちの先祖がサッカーに興じていたという事実を知ることで)自分たちの歴史もしくは遠い記憶の中にサッカーがあったからだ。

本作には、それほど深い文化評論的なメッセージは込められていないと思うし、そもそも子供でも楽しめるレベルで制作された作品だから、敢えて裏読みする必要はないのだが、実際 ダグたちを駆逐しようとするブロンズ・エイジ・シティの側でも(かなり現代的な意味における)悪人は戦闘をしかけてきたリーダー1人(しかも王家のような絶対君主ではなく、君主から都市の管理を任された地方長官という役人的な存在)だし、彼にしたところで人種や下位文明に対する多少の侮蔑はあるにせよ、それほど濃厚な殺意や悪意は持っていない。あくまで私欲を肥やすうえでの横柄さを持っているだけなのである。(それだけでも決して善人ではなく悪人と言えるだろうが、残忍さは持ち合わせておらず、ワルいヒト、程度の存在だ)

未来を拓いていかねばならない子供がいる家庭にオススメの作品

2020年4月現在、多くの人は、自宅での自粛生活を余儀なくされていると思うが、家族、とくに子供と一緒に映画を見るという機会も多くなっていることだろう。
そんな時に見るべき一本として、平和でフェアで(前述の地方長官は、多少のズルを仕掛けてくるが、サッカーで負けたらダグたち部族に、奪った土地を返す、というダグとの約束を反故にしようとはしない)、襲いかかってくる苦難を前に簡単に諦めることなく、努力を惜しまなければ活路は見えてくる、という、現在の世界的な苦境のなかでも未来を拓いていかねばならない子供たちに見せるには、とても都合がいい作品である。

反対に、大人が鑑賞するにはちょっと物足りないかもしれないが、すべての世代に訴求できる完璧な作品はそうそうない。そこはちょっと我を引っ込めて、子供たちとの温かい時間の実現に取り組んでみることが吉だろうと思う。

本作は、全世界にファンを持つ『ウォレスとグルミット』『ひつじのショーン』などで知られ、これまでに4度のアカデミー賞®受賞歴を持つニック・パーク監督×アードマン・アニメーションズで制作された新作ストップモーション・アニメーション。

earlyman.jp

★ダグ★

明るく陽気で勇敢な少年。熱意と信念を持っており、いつか大きなことを成し遂げたいという野心も抱いている。愛する故郷を奪った強敵にサッカーで対抗するため、みんなをまとめ上げるリーダー力も発揮。ブタのホグノブはいつも一緒にいる最高の相棒。

声:エディ・レッドメイン

1982年1月6日イギリス・ロンドン生まれ。
2002年、舞台『十二夜』で初舞台を踏む。10年、ブロードウェイ・ミュージカル『Red』に出演し、トニー賞を獲得。12年、映画『レ・ミゼラブル』でマリウス役に起用され、注目を浴びる。14年、映画『彼女と博士のセオリー』では、スティーヴン・ホーキング博士を好演し、第87回アカデミー賞®で主演男優賞を受賞するなど、数々の賞を受賞している実力派俳優。 2015年には『リリ―のすべて』で主人公のデンマーク人画家アイナー・ヴェイナーを演じ、アカデミー賞Ⓡ、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合(SAG)賞、英アカデミー(BAFTA)賞にノミネートされた。同年、SF『ジュピター』にも出演。また2016年には『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』に主演。続編『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』は2018年公開。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。