妻に先立たれたオーヴェ。挙句に43年も務めた仕事を解雇されてしまい、すべての希望を失った彼は妻の後追い自殺を決意するが、新しく近所に越してきた家族や迷い猫の世話を焼かざるを得ず、なかなか想いを遂げられなくなって...
スウェーデン郊外に住む偏屈男が、他人との触れ合いによって、心を開いていく様子を描いた、心温まる作品。

人間は1人で生きられる訳ではない、と改めて感じる作品

主人公のオーヴェは59歳にして(見た目、70過ぎに見えます)愛する妻に先立たれたうえに、43年も務めてきた会社をクビになってしまう。
彼は生来曲がったことが大嫌いで、融通の効かない性格だったが、明るく前向きな妻を失った悲しみから、その偏屈ぶりに拍車がかかり、それまで関わりがあった近隣の人々からも変人扱いされて敬遠されるようになっていた。

人生の全てに絶望したオーヴェは、自殺して妻の元にいく決意を固めるのだが、そんな折に近所に越してきた4人家族(スウェーデン人の夫とイラン移民の妻パルヴァネ、そして幼い娘2人)のドジぶりを見過ごせず、つい要らぬお節介を焼いてしまうようになる。気に入らないことがあるとすぐに怒声を発するオーヴェは、なかなかに付き合いづらい変人と思えるが、パルヴァネと娘たちはなぜか彼になつく。オーヴェは幾度となく自殺を試みるのだが、その度にパルヴァネたちの意図せぬ行動によって邪魔をされるのだ。

オーヴェは頑固で偏屈ではあるが、悪人ではない。誤解されがちだが心根は優しい善意の人である。そして、彼を遠ざけていたかのように見える周囲の人々は、そんな彼の本当の優しさを知らなかったわけではなく、愛妻を失ったつらさゆえに他人との交流を拒絶するようになってしまったオーヴェの哀しさを実は理解していた。理解していたからこそ、オーヴェの拒絶をやむなしと受け入れていたのだ。
パルヴァネたちとの交流をきっかけに、オーヴェの頑なな心が解けていくに従って、近隣の人々の穏やかで温かい理解がオーヴェにも届くようになる。そして、オーヴェは妻を喪っても自分は孤独ではないことを知るのである。

ちなみに、本作ではオーヴェが父親の薫陶もあって 自動車を愛し、特にサーブを唯一無二の存在として強い忠誠心を抱いている様を通して、彼の頑固さや一途な性格を示している。
ご存じの読者も多いかもしれないが、サーブという自動車ブランドは2016年に終了し、今はもうない。本作は本国では2015年の公開(日本公開は2016年冬)だが、消えゆくブランドに対するこだわりの強さを見せるキャラを描くことで、古き良き時代の郷愁を色濃く持ったオーヴェの人となりを見事に描き切っていると思う。
(オーヴェのサーブに対するロイヤルティの高さは、友人がサーブではなく同じスウェーデン車であるボルボを愛することが気に入らず、さらにはドイツ車であるBMWに乗り換えたことで絶交してしまうほどだ)

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小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。