長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。友人のシンちゃんのバイク屋の手伝いで何とか糊口をしのいでいたはずが・・・
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第57話「知るは走り手練はるかヨ」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部『雨はこれから』

思いもよらない不幸の知らせ

テレビ局を辞めた私は、漫画家になろうと一念発起して作品を描いては知り合いのいる出版社に持ち込んでいたが、なかなか日の目を見ることはなかった。
自由を手に入れたといえば聞こえはいいが、それでも食っていくだけの金は稼がないとならない。そんな私に助け舟を出してくれていたのは、バイク屋を営むシンちゃんこと寺島真一郎。
テレビマンとしてまだ駆け出しだった頃からの付き合いだ。

口は悪いが腕はいい。それに漢気あるシンちゃんは、ことあるごとにバイク屋を畳みたいと愚痴っていたが、それでも私にちょいちょい仕事をくれていたのだった。
そんなシンちゃんが、突然たおれた。どうやら脳梗塞らしい。

命には別状ないらしいが、半身にマヒが残るかもしれないとのことだ。バイク屋は続けられまい。

これが髀肉の嘆か

ガキの頃は、こんな世の中なんか変わってしまえばいいのに・・・などと思ったものだが、自分がオヤジになると。

私は矢も盾もなく病院に向かったが、シンちゃんはICUから出てくる気配はない。ここで夜を明かしても良かったが、心配は彼の奥方にお任せして私は帰宅することにした。とりあえずは明日の店(バイク屋)を開けてやらなくてはなるまい、そう思ったのだ。

私はドラッグストアで筋肉痛のクスリを買い、帰路に着いた。

明日はどうなるかわからない。そうだ、誰にも未来のことはわからない。何があるかなんて、予想つくはずないのだ。

楠雅彦 | Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。