ロシア発・世界唯一のサイドカー専業メーカー「ウラル」。その魅力を広めるべくウラルジャパンCEOとして活躍するブラド氏は、理想を実現するために日々努力を欠かさない。その成功の影には、ブラド氏が生涯を通して嗜む「武術」があった。Vol.5では武術稽古についてご紹介いただいた。

守破離

ここからは武術稽古の基本となる「考え方」についてお話しましょう。

ここでは武術や茶道などの分野で使われている「守破離」が重要になってきます。この言葉には多数の意味が込められていますので、それぞれ一つずつ解説していきます。

守とは

「守」は、師匠の教えに従って練習・訓練をして基礎を少しずつ身につけるということです。「守」の段階では基本の動きを磨きつつ、師匠の考え方も理解できるように修業をすることが大切です。

「早く強くなりたい!」「基本じゃなくて実戦的に使える技を習いたい」という生徒も少なくありません。しかし、本当に上手になりたいのなら基本を大切にすべきです。

武術は言葉では伝えにくいところも多いです。極端な比較ですが、仏教の教えに似ているかもしれません。師匠に言われたことを丁寧にやりながら、自分の経験を重ねて、ある日「悟る」という感じです。

そもそも師匠クラスになると生徒のレベルから離れすぎているため、どれだけ言葉で説明しても生徒がすべて理解できるわけではありません。まず教わったことをしっかり稽古して、自分で研究するしかないのです。師匠の言うことをしっかりと守る──師弟同士、そこには信頼が必要になってきます。

教えをしっかりと守ることが基本中の基本

破とは

次は「破」です。

種として見ればヒトはひとつです。しかし、個で見れば体型、身長、体重、考え方に違いがあります。なので、たとえ同じ師匠から教わった生徒たちでも、まったく同じ動きにはなりません。

世界には多数の武術が存在しており、そこから学ぶことも多い

「破」というのは、師の流儀を極めた後に、個としての自分らしい使い方、もしくは他流派の型なども習って独自に工夫することを言います。つまり、教わった作業を自分なりに分析し改善・改良する段階です。

離とは

「離」とは、基本・基礎を“離れ”、師匠から教わったことを自分なりにカスタムして、オリジナルへと昇華することです。

ここで大事なポイントは、「離」の段階に入っても「守」を忘れてはならないということ。

教えから離れたとしても、「その根源となる精神を見失ってはならない」ということが重要であり、基本ができていないままに個性や独創性を求めるのはいわゆる「形無し」です。

禅宗の無着 成恭(むちゃく せいきょう)先生の言葉を借りれば、「型がある人間が型を破ると『型破り』、型がない人間が型を破ったら『形無し』」ということですね。

現在の武術では、「型分解」や「裏分解」などといったキーワードもよく出てきています。分解とは、動きのひとつひとつの意味を理解するということです。

ただ、僕の師匠達は、分解することを考えすぎると一つの使い方しか見れなくなってしまう、と言っています。つまり、この型はこうだからこう使う……といったように視野が狭くなって上達が難しくなる可能性があるということです。

守破離は基本が命!

守破離は書道と同じで、守=楷書、破=行書、離=草書です。正確な文字が書けるから崩しても読めるのです。正確に書くことが出来ないのに崩してしまうと何を書いているのかわからないですよね。

正確な文字を書くためには、筆順はもちろん、「トメ」や「ハライ」といったように八つの技法(永字八法)をゆっくりと書く稽古が必要です。それこそがまさに前述した“基本”であり“型”なわけですね。

武術稽古の目的とは

武術稽古とはその武術の上達にだけ必要なことではありません。実戦で起こるであろうあらゆる状況において、自然と身体が動くようになることです。

その動きの無駄を無くすために覚えるのが型であり、応用するために必要なのが守破離の考え方です。

闇雲に練習すればうまくなる……というわけではなく、しっかりとした考え方を持って行うことが重要なんですね。

では今日はここまで!
コロナ渦でまだまだ大変な時期は続きますが、くれぐれもお体にお気をつけくださいね。

何事も基本が大切。どんな状況にあってもこれを忘れずに!

ブラド|Volkhin Vladislav
ロシアのウラジオストク市生まれ、2012年から日本滞在。Ural Motorcyclesの日本法人・ウラルジャパン(株)の代表者。沖縄&フィリピンの武術愛好家でもあり、俳優、フリーランスモデルも務める。小さい頃から好きなバイクと武術を本業にしている関西弁混じりの日本語が喋れるロシア人。
Instagram:vlad_volkh

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