長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。脳梗塞で斃れた旧友のシンちゃんの代わりに、彼のバイク屋を切り盛りしていたが・・・
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第60話「痩せても枯れても」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部『雨はこれから』

旧友のシンちゃんが退院した

脳梗塞で倒れたシンちゃんが退院した。
リハビリ次第で、歩く事も喋る事も回復できると医者に言われたそうだ。

だが、これまで病気らしい病気にかかったことがないシンちゃんは相当に落ち込んでいるようにみえた。奥さんと娘はそんな彼を気丈に支えている。家族だ−−。

シンちゃんの不在中、私は彼のバイク屋の営業を代わっていたが、どうにかお役御免となった。私には私のやるべき事があり、そろそろそいつに集中しろよ、という時期が来たということらしい。

時間がないんだ

20代から知っているシンちゃんが倒れたことは、私にとっても衝撃的な事件であり、自分たちが自分で思っているより若くはないという冷徹な事実を否応なしに自覚させられることだった。

シンちゃんの気落ちは、私の自信喪失なのだった。

シンちゃんのバイク屋を辞して、帰路についた私は、バイクを停め、荷物を置いてひと息ついた。
何度も頭をよぎる凍りついたような真実が、今回ばかりは目の前に突きつけられるような気分から逃れることはできないでいたのだ。

そう、私たちには、もうそれほど多くの時間も機会も残されてはいないのだ、という想いだ。

時間がないんだナ

安定した人生を捨てて、代わりに自由な時間を得たと思っていた。しかし、実は残された時間はそれほど多くもなく、得られた自由は やるべきことにひたすら打ち込むために使うほかないということを、本当には理解できていなかったのだ。
私には時間がない。迷っている暇はないのだ。

回り道をしている時間はない。やるべきことをやろう

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。