米国の小説家ジャック・ロンドンの中編小説『野性の呼び声』を原作とした作品。売買目的で拐われた飼い犬のバックがそり犬になり、やがて野生を取り戻して自然に帰るまでを描いているが、本作はディズニー映画らしく、全体的にソフトなトーンで作られて毒気が薄いので、子供が見てもなんの問題もないだろう。
バックの最後の飼い主ソーントンを演じるのは名優ハリソン・フォード。優しいお爺さんといったモードで、ハン・ソロでもインディでもない、好人物ぶりを全面に見せている。

超精密CGによる“芸達者”な犬たち

『ライオン・キング』などをリリースしたディズニー作品。ゴールドラッシュに湧く20世紀初頭のカナダ ユーコン州を舞台にしており、雪と氷に覆われた厳しい自然環境で生きる犬たちと人間の暮らしを描いているが、そこはディズニー作品、過酷さは和らげられていて、子供にも安心して見せられるレベルになっている。

本作では、実写と見紛うばかりの超精密CGによって、主人公のバックを含め、出てくる動物たちが実際にはあり得ない巧みな表情と演技を見せる。

動物と子役には敵わない、という言葉があるが、その意味では本作は動物のリアルな動きというよりは、あくまでCGでありアニメーションに近く、その出来はものすごいのだが、まだどこか違和感が残る、発展途上な表現にとどまっているように僕は思った。

厳しい自然に還ることの覚悟は見られない

冒頭に書いたように本作はディズニー映画である。僕の記憶に残る原作では、バックが野生に帰るきっかけになるソーントンとの別れは、先住民の襲撃によるものだったし、かなり唐突で不条理な暴力の結果だったが、本作では(いちおう原作の“厳格”で冷酷な匂いを多少残しながらも)かなりマイルドな表現になっている。

原作では、バックという飼い犬が野生の狼の群れのリーダーへとなっていきながらも、ソーントンへの哀切な思い出は引きずっている様子を冷徹なタッチで描き出されており、人間側からの視点≒野生に還りながらも人間との暮らしの良い部分は記憶していてくれるという期待を残してはいるが、それは、凍てつく大地に暮らす厳しさを感じ取れるヒリヒリとした感覚の中で、焚き火を起こしたり暖かいコーヒーを啜りながら、ようやく得られるわずかな暖のように、刹那的な温もりのようなものだったと思う。

しかし、本作は全体として相当にソフトで優しい作りになっていて、原作が持つ荘厳なムードはほぼない。あくまでも人に飼われることから野生に還っていく犬の“人生”を肯定的に描くために、それ以外の要素を温くして印象を薄く仕上げているようだ。
ストーリーとしては、原作にそこそこ忠実なのだが、トーンとしては 極寒の中で生きるか死ぬかを問われるような厳しい自然に還っていく覚悟のようなものは描かれず、従ってバックにもなんの未練も迷いも持たせることのない展開になっている。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。