実話を元にした本作では、日本のバブル景気を思い出させるような豪奢で華やかな夜の街が、バブル破綻で一気に落ちぶれていく様が描かれており、いまのコロナ禍で喘ぐ飲食業の者は思わず涙するかもしれない惨状がリアルに描かれている。
男たちを騙すストリッパーのリーダー的存在に“永遠の歌姫”ジェニファー・ロペス。50歳を越える年齢を全く感じさせない鍛え抜かれた肢体とその美貌は、まさしく美魔女としか言いようがない。
(ちなみに現代最強のディーバであるカーディ・Bもカメオ出演していることでも話題に)
実話を元にした作品
本作は、実際に起きた詐欺事件を元に制作されている。
未曾有の好景気に湧くウォール街の金融マンたちが、濡れ手に粟のように手に入るカネにモノを言わせ、夜の街で大騒ぎする様の中で、色香を武器に彼らの金を懐に入れていくストリッパー達の狂宴を描くのが前半。
R&Bのスター、アッシャーが実名で登場するなど、そのはしゃぎぶりは本当にリアル。さらにそんなストリップクラブの花形ダンサーとして登場するジェニファー・ロペスのパフォーマンスも見事で、大枚叩いてでもその場にいたいと思わせる説得力がある。
リーマン・ブラザーズの経営破綻を契機に、金回りの良い金融マンが一気に減って、閑古鳥が鳴くようになる夜の街と、稼ぎ場を失って安い賃金での仕事を探すようになるストリッパーたちの落ちぶれた姿が描かれるのが後半への導入部。
彼女達の多くはシングルマザーだったり、ろくでもない男たちに貢がされていたり、華やかな生活で稼いでいたはずが蓄えなどありはしない。少しでも景気が悪くなれば途端に困窮してしまうのだ。
そして、裕福な暮らしが忘れられず、地道で清貧な生き方にとても馴染めない彼女たちは、金に困らない富裕な男たちを金づるにして、再び派手な生活へと舞い戻るための計画を立てるようになるのである。もちろん、それが詐欺行為であるとしても、そんなことは知ったことじゃない、男に依存して生きるなんてまっぴら。できるうちに荒稼ぎして、男に媚びない生き方をしてやる。
そんな彼女たちの生きざまを描くのが後半だ。計算づくの彼女たちの嬌声に鼻の下を伸ばす男たちの姿をみていると、思わず我が身を正したくなる人も多かろうと思う。
固定化した社会への復讐者の話
本作は、1980年代のLAに実在した20代だけの若者たちの投資グループ ビリオネア・ボーイズ・クラブ(Billionaire Boys Club、通称BBC)を描いた「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」の女性版のような作品だ。
「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」は、富裕層に抑え込まれた若者が、己の才覚を使って下克上を目指しながらも挫折する話だったが(その方法は結局詐欺まがいのやり方だったが)、本作は学歴もなくろくな仕事にもつけない女性たちが、“女であること”と見た目の良さを利して裕福な男たちを騙して金を稼ぐという話だ(やはり手口は詐欺行為になってしまうが)。
共に虐げられた者たちが社会に復讐を果たす話であり、ともに最後は挫折して罪に問われるところも共通しているが、この手のピカレスクストーリーは、今後も多く映画化されることだろう。犯罪に手を染めるそのやり方はもちろん感心しないが、何もせずに諦めるのではなく反抗を試みる姿に、多くの人たちが心中で喝采を送るのであろう。
ジェニファー・ロペスの貫禄に感動
それにしても、本作を観ていて、やはり最も驚嘆するのは50歳を越えてなおストリッパー役、というか、若い女と張り合って男を惑わせることができるジェニファー・ロペスの美貌(というか、それを維持している努力と素質?)だ。
本作ではストリッパー役という設定から、極めて露出の多い衣装でいることが多い彼女だが(歌手としてのライブでの衣装を考えればどうということはないかもしれないが)、そのセクシーさはさすがの貫禄で、迫力を感じざるを得ない。そもそもあまり年齢を感じさせないタイプの容姿なのかもしれないが、その“見た目”を維持するための努力は、壮絶たるものだろうと思う。
本作は、不況下で困窮に喘ぐ者の絶望的な反撃を描いているが、実際には、女の価値は若さという常識を覆そうとするジェニファー・ロペスの“下克上”の方が印象深いかもしれない。
ジェニファー・ロペス演じる(詐欺行為のリーダー である)ラモーナが、友人のストリッパーを仲間に引き入れる際に「踊れない年齢になったらどうするの?(やるなら今しかないじゃない)」と口説くのだが、実際にはそのジェニファー・ロペス自体が通常ならとうにセクシーさで勝負できる年齢ではないのだから。しかしそれでも、ラモーナの台詞に説得力があり、納得できるのは、彼女が十二分に美しさを保っているからだ。年齢なんてただの数字に過ぎない、という言葉があるが、生まれや人種、性別や年齢など、差別の対象になりそうな要素は数多くあるにせよ、結局はそれを受け入れるにしても反発するにしても、すべては自分次第なんだと、心を強く持とうと思わせてくれるのが、本作におけるジェニファー・ロペスの存在なのである。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。