パキスタンからの移民青年クメイルは成功を夢見る駆け出しのコメディアン。あるとき白人女性のエミリーと恋に陥るが、敬虔なモスリムの家族からはパキスタン人との結婚をしなければ勘当という不文律を課されていた。
そんな折、エミリーが急な病で倒れてしまい、クメイルは 家族か恋人か?の究極の二者択一を迫られるようになる・・・。
異文化に生きる若者たちが直面する分厚く高い壁の存在を、ユーモラスたっぷりに描いたヒューマンドラマ。

パキスタン出身のアメリカ青年が直面する文化の差異の壁

本作の主人公クメイルはパキスタン移民の米国人。国籍はあるがその浅黒い肌や顔立ちは明らかに白人のそれではない。
敬虔なイスラム教徒(モスリム)の家庭に育ってはいるが、クメイル自身は無無神論者に近く、モスクにも教会にも縁がない。ある意味、完全に現代のアメリカの若者であり、肌の色の違いとは関係なく、ごく普通の市民である。

しかし、彼はことあるごとに周囲からIS(イスラム国)のメンバーもしくはテロリストのシンパであるかのような見方をされる。周囲の人々に特に悪意や不安があるわけでもないのだが、そこに偏見は確実に存在するのである。そして、そんな穿った見方に対して(コメディアン志望らしく)かなり際どいジョークでクメイルが返そうものなら、周囲の白人たちは一瞬それをまにうけて顔色を失くす。

さらに、暴力的な行動を是としないにせよ、クメイルの親族たちは、自分たちのカルチャーに閉じこもり、白人たちを敵視はしないが融和しようとはしない。クメイルにパキスタン女性との結婚を迫るのもその現れだ。
クメイルは、そんな両親に「だったらなぜアメリカにやってきたんだ?」と抗議するが、その問いかけが両親の意識を変えることはない。結局のところ、クメイルの親族をはじめとするパキスタン移民たちの多くは、アメリカを帝国主義と謗ることはないし悪戯に敵視もしないが、かといって文化的な差異を埋めようと努力したり、白人たちの(キリスト教的意識や)文化を受け入れようともしていないのである。

ある意味、どっちもどっち、という他ない現実がそこにある。

異文化交流の難しさを優しいタッチで表現

そんな文化の断絶の間にあって、あくまでも自然体で暮らすクメイルは、自分の環境に特に絶望したり、自暴自棄になったりもせず、ただひとりのアメリカ青年として生きていくことを願っている。
偶然の出会いから、これまでにない深い愛情を感じるようになった恋人エミリーは白人だったが、それもあくまでたまたまで、家族のパキスタン主義に反抗したわけでもない。

むしろ、家族の繋がりに反発するくらいなら、自分を殺して両親の願いに従おうとする彼だったが、偶然にも(不運にも?)エミリーが病に倒れ、命の危険に陥ることで 家族をとるか恋人をとるか、しきたりに従うか信念に従うかの二者択一を迫られる。

本作には、クメイルやその親族たちの身の危険を脅かすような黒い邪心や悪意は出てこない。ただ無邪気な偏見だけが、白人社会にも移民家族たちにも沈殿している様が描かれている。

その結果、差別意識の根深さは感じるものの、問題の存在やその解消を訴えるというよりは、異文化交流の難しさやそれを超えることの厳しさを 明るいタッチで表現している。
異なる文化が存在したり、交じり合おうとすることの是非を問うことはしない。ただ、それらがあること、そして その高いハードルを超えて行こうとしてする者の存在を応援はするが、そのハードルに尻込みする者の存在を否定したりもしない。

本作はそんな優しい作品だ。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。