ターミネーター:新起動/ジェネシス」でヒロインを演じたエミリア・クラークが、エージェントというよりはFBIの情報提供者(インフォーマー、もしくは密告屋)となるスーザン・スミスを熱演。
田舎町の最下層の暮らしから抜け出したいあまりに、袋小路に迷い込んでいく女性の哀しい生き方を描いた問題作。
社会問題となった、実際に起きた犯罪事件をベースとしている。

一線を超えてしまうFBI捜査官と、彼の情報提供者となる1人の女性の、つらく苦しい事情とは

舞台は1980年代の、ケンタッキー州のとある田舎町。
別れた夫と2人の子供との貧乏暮らしを強いられるも抜け出せずにいるスーザン(エミリア・クラーク)は、手柄を立てて出世することを夢見るFBI捜査官マークのインフォーマー(情報提供者)になる。

野心を持ち、都会的に洗練されたマークはスーザンの知る他の男たちとはまるで違って見えた。金のためにマークに密告を繰り返すスーザンだったが、同時にマークと男女の関係になることによって、彼が自分をこの小さな街から連れ出してくれるのではないかと夢想し始めるのだった。

裏社会のネタの提供者が若く美しい女性であったばかりに身を持ち崩すFBI捜査官と、男の欲望に依存しようとして失敗した哀れな女性の、切ないすれ違いを描いた、実話ベースの作品。邦題こそ、エージェント・スミス(スミス捜査官、と読める。ひどいミスリードだと思う)だが、実際には官憲への密告者となる女性の話であり、原題は「Above Suspition」(疑わしさ、のような意味になるだろうか)となっている。

エミリア・クラーク主演にしては、相当に扱いが低い作品??

本作は2019年の作品であり、当時においても世界的なスターの仲間入りをしているはずのエミリア・クラーク主演でありながら、日本では話題にもならなかった作品。
というか、欧米でもあまり評価されてないのではないか?

FBI捜査官の犯罪関与というスキャンダラスな事件をテーマにした作品でありながら、ほとんどお蔵入りに近い扱いを受けていることに、同情を禁じ得ない。ストーリーそのものは凝っているし、脚本も役者たちの演技も悪くない。B級と片付けるには惜しすぎる、良い出来の作品だ。ヒロインのスーザン役のエミリアも、スター性を押し殺して最下層で生きる女性を熱演しているし、FBI捜査官が思わず手を出してしまう美しさも妖しい魅力も十分に醸し出されている。家族がいながらもスーザンとの関係に溺れるマークの姿も(実話ベースだけに)非常にリアルだ。

ただ、実のところ、本作はちょっと暗すぎるのかもしれない。エンターテインメントならではのスリリングなアクションも少ないし、劇的な展開も少ない。
マークを堕とすスーザンの魅力は分かるが、そのエロティックさは観客により分かりやすいような形(簡単に言えばヌードとか、“はっきり見える”濡れ場など)では描かれない。
もちろん分かりやすければいいでしょ、ということでもないのは言うまでもないのだが。

ただひたすら重苦しく、破綻に向かってまっすぐ走り落ちていくのが本作であり、これでは世間にあまりウケないと、マーケティング関係者たちが思ったのかもしれない。
結果として、ウケ狙い?なのはタイトルだけで、あとは暗く重い展開で、間違ってもデートで見ないほうがいい、そんな作品だ。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。