3.11で衝撃を受け、このままではダメだ!何か変えなきゃ!と立ち上がるチームの面々が、厳しい現実に直面しては挫けかけるが都度 新たな闘志を抱いて立ち向かう。
©SHUEISHA inc. All rights reserved
3.11を経て 新たなエネルギー開発を目指す必要性が明確になった世界を描く
主人公の成島ヒロは28歳。エネルギーの流れが見える特殊能力を持っている。
(地球に負担をかけるエネルギーは赤く、環境に優しいエネルギーは青く見える)
大手エネルギーメーカー JECの一係長である彼は、3.11によって発覚した石油依存と原子力の危険性から脱却するため、代替エネルギーの確保を目指した“新世代エネルギー開拓”を命じられる。
太陽光発電(太陽熱の利用なども含む)や風力発電など、様々なサスティナブル(持続可能)かつエコなエネルギー利用の可能性を探りながら、多くのメリットを持つ石油に代わって世界の文明を支えることができるだけの電力確保の道を求める成島率いる“新世代エネルギー事業開発チーム”の挑戦の結果はいかに。
代替エネルギーを圧倒する石油の優位性とは
エネルギーとは、現代文明の維持に必要という意味において ほぼ電力の意味だ。毎日膨大に消費される電力を得るために、日本では石油・石炭・LNG(液体ガス)などの化石燃料を活用する火力発電を中心に、さまざまな発電所が稼働している。
脱炭素のために、石炭や石油を使う火力発電をストップしよう、と言うのは易しいが、それならばその分の電力需要をどうやって賄うのか?原発は そのための代替策として生まれたはずだが、その原発は(地球温暖化をひきおこすCO2を出さないという点では)クリーンといえる発電技術かもしれないが、副作用として生まれる核廃棄物処理の問題をはじめ安全性に疑問符がつくから、いまや その可能性を考えること自体がタブーだ。
となると、電力がなければ原始時代のような生活に逆戻りするしかないが、そんな生活に我々は耐えられるのか?という問題に直面する。だから、脱炭素および脱原発のキーワードに即した新たなエネルギー開発が急務となるのである。
石油には、太陽光発電などでは太刀打ちできない 多くのメリットがある。液体として安定した状態を保てるので、運搬にも適しているし貯蔵もしやすい。しかも(太陽光発電や水力発電などの)いわゆるサスティナブルな自然エネルギーに対してエネルギー効率が非常に高い。さらに、あと数十年分しか保たないと予測された埋蔵量も、科学技術が進んだ現代では 実は最低でも数百年分は発掘可能と見られているのだ。
ただし、CO2や硫黄酸化物など環境破壊に関係する汚染物質の排出量が多いというデメリットがあり(それは石炭でもLNGでも同じことが言える)、これがゆえに化石燃料を用いる火力発電は、どんなメリットがあろうとも可及的速やかに廃止すべし!という“結論”に至っているのである。
現実に負けず折れず、一歩でも前に進もう
JECは基本的には石油を中心として、電力を提供する会社であり、成島たちのプロジェクトは 会社の継続的な発展を実現できる手段の発見が使命である。石油への過度な依存から脱却するための、次のエネルギー源の開発がミッションだ。
太陽光発電や風力発電などのクリーンエネルギーの可能性を探った成島たちは、結果として 石油以上の代替エネルギーを手にすることはできないが、結局 全てのエコでクリーンな手段のエネルギー効率を高めながら、総合的に使っていくことが現段階では最適解であると考えるようになる。
石油や石炭などによる火力発電や、原子力発電の省エネ性やエネルギー効率にはまだまだ到底及ばないが、これらの手段に頼ることは 出来るだけ早くやめなければならない。そのために、今できることはなんでもやる、そしてより良い手段の発見に精一杯努め続ける。
エネルギー効率の高い既存の方法にしがみつく反対勢力や既得権保持者の存在に負けず、少しずつでも前進しなければならない。
本作の結論はそこにあり、3.11から得た教訓を活かしていくのも、そんな決意によるほかないだろう。
3.11の衝撃から10年が経過した今だからこそ、もう一度想いを新たに前進を続けていくことを決意しよう。
本作はそんな想いを抱える者の背中を軽く押してくれる良い作品である。
(ちなみに、本作の登場人物は、Boichi先生の近年の傑作『ORIGIN』に繋がっていくようである)
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。