トム・ハンクス主演の正統派?西部劇。
ある偶然で保護した女児を、親戚の家に送り届けるため、640キロもの荒野を南下することを決断した退役軍人の過酷な旅を描く。

老退役軍人と少女の触れ合いを描いたハートフルドラマ

舞台となるのは1870年のアメリカ。主人公は南北戦争(1861-1865)で 南軍に従軍した元大尉ジェファーソン・カイル・キッド、通称大尉=キャプテンで、扮するのはトム・ハンクス。彼は元印刷屋だが戦争で失職し、いまは各地を放浪しながら、日々の労働に追われて娯楽のない人々に、新聞の朗読を聴かせてわずかな対価をとる仕事をしている。

(世界のニュースを伝える男、という意味で、原題はNews of the world。ただし、実際には彼が読み上げるのは全米内のものだけであり、当時の人々はあくまで州単位で暮らしており、海外に対する知識や関心はなかったことがわかる。ある意味、藩という区分の中で暮らしていた当時の日本人と同じようなものかもしれないが、1870年といえば明治3年で廃藩置県が施行された頃で、むしろ日本人の方が海外に対するアンテナの感度が高くなっていた時期かもしれない)

そんなキャプテンは、あるとき偶然にインディアンネイティブアメリカン(=北米大陸の先住民)に育てられたドイツ人らしき 10歳の少女ジョハンナと遭遇し、これを保護する。

幼い頃に家族を殺され、ネイティブアメリカンと共に暮らしてきたらしいジョハンナには、どうやら伯父夫婦がいるらしい。
英語を解せない彼女を重荷に感じるキャプテンだったが、生来 優しいというか責任感が強い性格だったのだろう、彼は過酷な道中になることを承知の上で、彼女を伯父夫婦の下に連れていくことを決意するのだ。

本作は、老いた退役軍人と、少女のロードムービーであり、さまざまな苦難を乗り越えながら、2人が言葉の壁を超えて徐々に心を通わせていくさまを描いた、心温まる一本だ。

ひねりなく作られた、骨太の作品

本作は、文字通りの本格的な西部劇である。
南北戦争が終結したあとの南部地方が舞台であり、北軍が管理している様子は窺えるが、南と北の融和はまだ時間がかかりそうだ。だからというわけでもないだろうが黒人の姿は見えないし、さらにいえば、昔はネイティブアメリカン(先住民)たちの姿も少なく、さらに彼らをひどく蔑視したり虐待したりする様も描かれない。

ある意味、差別問題からは、かなり距離をおいた作品になっている。(1870年に、現代の平等意識を持ち込もうとしないところは、かえって好感持てるつくりだと思う)

本作は、ただ戦争ですべてを失った男が、偶然知り合った少女を守る使命感に駆られ、そしていつしかその使命感が生きがいというか生きていくために絶対に必要な心のかすがいへと変わっていく様子を描いている。同時に、言葉が分からず、自分の人生が大きく変転しつつあることは理解しつつも、見知らぬ男(キャプテン)を完全には信用できずにいる少女が、ついにはその男が自分に向ける想いが愛情とも呼べる代物であると納得していく様子を、過剰な説明なく、観客に感じさせてくれる。

なんとしても守りたい相手がいる。自分を必死で守ろうとしてくれる人がいる。
その想いが同じ方向を向いているならば、これ以上幸せなことがあるだろうか。

その意味で、本作は非常にシンプルに作られたエンターテインメントだが、そのメッセージが、非常に丁寧に作り込みされているおかげで、ストレートに心に届く。エンターテインメントとはかくあり、と言える作品である。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。