突然の父親の死。施設送りを嫌気した少年は、一頭の競走馬を道連れに、わずかな望みを懸けて かつて自分を愛してくれた伯母を探す旅に出るーー。
涙無くしてみられない、哀しき少年の逃避行の結末は・・

愛を求めて放浪する少年の話

主人公のチャーリーは父親とポートランドで2人暮らし。気ままな父親はとっかえひっかえ女性遍歴を続けるが、家にお金はなく、チャーリーは学校にも通えない困窮状態にいた。

あるとき、偶然の出会いから、わずかな給金をもらいながら競馬馬リーン・オン・ピートの世話をすることになったチャーリーだったが、父親が不倫相手の亭主に暴行され、そのまま他界してしまう。さらに、勝てないピートが殺傷処分になることが決まってしまい、思いあまったチャーリーはピートを連れ出して、旅に出る。

目的地は、ワイオミング。
2年前まで自分を大切に扱ってくれた伯母マージーの記憶を頼りに、愛情に飢えた少年の逃避行が始まるのだった。

ポートランド→ワイオミングへ

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原題は、Lean on Pete。少年が旅の道連れに選ぶ馬の名前だ。

絶望の中にも素直さを失わないチャーリー少年

本作は、貧乏生活に喘ぎながらも、グレることなく素直さとひたむきさを持った少年が、人並みに愛ある生活を求めて彷徨う姿を描いた作品だ。

父親の不意の他界で身寄りをなくし、養護施設に送られそうになった彼は、同じく脚を痛めて処分されることになった競走馬ピートを盗み出し逃走するのだが、そこには一片の悪意もなく、ただただ “大人の事情”に振り回される自分たちの境遇に哀しい共通点を見出して、反射的に行動してしまっただけだ。

彼は、やむにやまれず、時に無銭飲食や万引きをしながら旅を続けるが、悪に染まることなく、素直さを失わずに旅を続ける。旅の途中で相棒であるピートを喪い、苦悩と絶望の中で、伯母のマージーへの再会を果たす。「ここにいてもいい?」とためらいがちに問いかけるチャーリーに対するマージーの答えは・・・まさに息を呑む瞬間だ。
(お願い!彼を突き放さないで!と心から願う瞬間だ)

ちなみに、本作では、悪に染まることなくできるだけ真っ当な生き方を選ぼうとする少年が主人公だが、彼を取り巻く大人たちにも、いわゆる悪党は出てこない。悪いことをしないわけでもないが、それはあくまでもやむに止まれぬ状態に追い込まれた結果であって、余裕があるうちは真面目に働く労働者たちである。いい加減に生きる父親でさえも、チャーリーを学校にも行かせられない適当さを発揮しつつも、チャーリーを殴ったりはしないし、彼が稼いだ金を奪い取るような真似はしない。ギリギリのところで、みな“いい人”なのである。

苦しく厳しい、冷たい現実に向き合って生きるチャーリーが、簡単に非行に走らないのは、そんな周りの大人たちの“まともな”様子があるからなのかな、と思ったのである。

しみじみと堪能できる佳作

観る前には1ミリも期待もしていなかった本作だったが、低予算らしき作りではありながらも、なかなかに胸に染みるいい作品だった。
主人公チャーリーを演じる若手俳優チャーリー・プラマーもこの言葉少ない多感な少年を巧みに演じているし、彼を取り巻く大人たちの様子も、チャーリーへの過度な関与がないがさりとて完全に無関心なわけでもない、そこそこの優しさをうまく表していてリアルだ。

大きな劇場でロードショーを続けられるような作品ではないが、こういう映画の良さもあるとつくづく思える、落ち着いた一本だ。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。