タイムループに閉じ込められた黒人青年が、白人警官に殺されては目が覚める朝を延々と繰り返される。
黒人というだけで理不尽な暴力に晒される恐怖をスタイリッシュで現代的な映像で描き出した短編映画。見れば人権問題に目覚めること必至。

毎朝理不尽な暴力に晒されるタイムループに入り込んでしまった男

主人公の黒人青年はわりかし売れっ子のグラフィックデザイナー。ワンナイトラブに興じた朝、彼は不可思議なタイムループの中に閉じ込められる。彼はただ愛犬の待つ自宅に帰ろうとしているだけなのだが、常に同じ白人警官に阻まれ命を落とす。
押さえつけられ首を絞められたり、拳銃で撃たれたりして殺されては同じベッドで目が覚めるのだ。

彼はどうにかしてこのタイムループを抜けて、家に帰りつこうと努力するのだが、どうしてもこの悪夢から逃れることができない。
しかし、彼は諦めることなく、何度でも挑戦することをやめない。いつか必ず、タイムループを抜け、自分らしく生きていくための“新たな日常”を手に入れることを信じて。

差別はなくならない?

本作は、ジョージ・フロイドへの不当な暴力など、米国に色濃く残る黒人差別問題に対する抗議を作品化したものだ。

主人公の青年は比較的裕福であり、教養もあると思われる。警官に職質されるような不審者にはみえない。しかし、彼は繰り返されるタイムループの中、中年の白人警官の“最初から何かの犯人であると確信しているかのような”不当な扱いを受けては殺されてしまう。
警官の行為には完全に悪意があり、理由なき憎悪がある。要は、彼からしたら黒人はすべからず犯罪者であり、劣悪な人種なのだという差別意識が心の奥底に染みついているのである。

だから、主人公の黒人青年がどんなに警官と人間的な関係をつくろうと努力をしても、彼の敵意が減ることはない。

差別は無くならないのである。

主人公の青年は、生まれた瞬間から黒人と白人は不平等、スタート地点からして黒人は虐げられていると主張する。そんなことはない、と警官はいうが果たしてそうか?

差別は肌の色に関係することだけではないが、少なくとも米国においては、黒人差別はその被害の大きさと失われてきたチャンスまたは命を数えることができる、明確に存在が証明されている不平等なのである。

観なければ損!と言い切れる作品

本作は、繰り返される不条理に翻弄される黒人青年の葛藤が描かれている。そして、逆に、差別をしている側の白人の理由や論理には全く触れられていない。なぜ差別をするのか?という問いはないし答えもない。

もちろん、差別される側からしたら、相手がなぜ理不尽な行為を繰り返すのかの理由はどうでも良くて、とにかく“いますぐやめろ”そして“謝れ”という気分なのかもしれないが。

(ただ、その彼らにして、現在米国を荒れさせている アジア系市民への #ヘイトクライム に加担しているのかいないのかは僕は知らない。知らないが、差別は誰の胸の内にも存在していて立場が変われば同じように発現するものだと僕は思っている)

いずれにしても、本作はそうした白人と黒人の間に根強く横たわる差別問題を浮き彫りにする作品であるが、画的にとてもポップでスタイリッシュだし、主人公の青年も幾度も失敗しつつも明るさを失くさず、若者らしくポジティブに挑戦を繰り返す。そのおかげで、つらく哀しい現実をテーマにしながらも、物憂さを感じることなく観続けることができる、良い作品に仕上がっている。

前述したように、白人側の理屈が描かれず不条理さを遺したままのストーリーではあるが、米国の黒人が置かれた現実の苦しさを理解できる、素晴らしいクリエイティブは、観なければ損、と言い切れるほどの出来栄えになっていると思う。オススメだ。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。