およそ誰もが知っているであろうマフィアの大ボス アル・カポネ。1920年代のアメリカ合衆国における闇社会の支配者だった彼は、FBIによって投獄され、10年後に出所したものの、長年患った梅毒のために48歳の若さで他界する。本作は、衰えたアル・カポネの惨めで無様な晩年と、彼が隠匿していると噂された1000万ドルもの大金の行方を追うFBIの捜査の行方を描いた異色作である。

トム・ハーディーがカポネを熱演

主人公のカポネを演じるのは、僕が今一押しの俳優というかスターのトム・ハーディー。日本でも「ヴェノム」や「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のヒットでだいぶ認知されたのではないか?

身長こそそれほど高くないが、ガッチリとした筋肉質なカラダに、非常に整った顔。演技力も確かだし、ハリウッド大作でも本作のような地味なヒューマンドラマでもしっかりこなす。実に良い俳優と思う。

その彼が、持ち前の男臭い風貌と色気を抑え、死を間近に迎えようとしている衰えたギャングスタを演じている。時折り激しい殺意や衝動に揺り動かされる、かつての闇の王者の顔がのぞくものの、基本的には脳髄まで犯そうとしている性病の影響で、妄想と四肢の麻痺に囚われていく。

映画の中では、彼が1000万ドルを隠したのは間違いないらしいが、結局その隠し場所さえも思い出すことができないカポネの晩年は、落ちぶれて周囲から支持者や部下、家族までもが少しずつ離れていく、哀しく切ないものだ。

本作は、激しいアクションはほとんどなく、失われていくカポネの正気と、かすかに残る意識を頼りに隠し財産の行方を追うFBIの試みを、恐らくは史実に基づいて描いている。つまり、力を失ったかつての夜の帝王が落ちぶれていく様をただ見せられる。その姿はとにかく寂しいの一言。
ただ、カポネが48歳という若さでこの世を去ったという事実も驚きだが、投獄される10年前までの彼の権勢は、相当に若いうちのものなのだということにも驚かされる。

ある意味で、本作のカポネの姿は同情を禁じ得ない惨めさだが、若いうちに我が世の春を謳歌することができた、ということを考えれば、この人は幸せだったと言えるのかもしれないな、とも思う。彼が一時的にも頂点を極めたことには間違い無いのだから。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。