長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。妙に人集まりし始めたアジトに嫌気がさしてきたところに漫画家生活に目処が出てきて?
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第69話「無頼の風」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部『雨はこれから』

主人の消えたドヤに集まる人々

門倉コーチなみに失踪した松ちゃん。ドヤに帰らぬ日々が続くも、彼を慕う者たちは彼の帰還を信じて今日も集まる?

「松ちゃん、どこ行っちゃったんだろ?」相変わらずナイスボディのソノミがつぶやく。

「ひとっ走りしてくるョ」
ジャケットと手にして外に出かけかけた彼女は、白い排煙を吐きながらやってきた白いトヨタ800を見つけ、自分のタイミングの良さにほくそ笑む。夕飯の買い出しを頼まれても文句はなかった。

さらに、走り出したソノミは一台のゼファー1100ともすれ違う。松ちゃんはいないというのに、どうしてみんなやってくるのだ?
自分もその1人だということを棚において、ソノミは気難しい難物のオヤジのどこにそんな魅力があって彼らは惹きつけられているんだろう?と考えざるを得なかった。

夕飯時にも戻らないあの人

バーベキューの準備をするのは、本来なら男どもの役割だろう、とソノミは思わないでもなかったが、このドヤに集まる男どもは基本的に食べるばかりでなんの役にも立たない。
文句を言っているよりは、自分で動いた方が早い。ソノミとリナは、そそくさと動き回り、肉や野菜を手際よく切り分けていった。

「肉ばっかり食ってんじゃねェ!」とソノミは男どもを叱咤したが、大学生のヒトシがやってきた頃にはもうほとんど残っていない状態だった。

「今頃来てあると思う?」ソノミは冷たく言ったが、「なんだよ、ソレ・・・」と情けない声を出すヒトシを多少哀れに思わないでもなかった。

それにしても、松ちゃんどこ行っちゃったんだろ?

ソノミはそう呟かずにはいられなかった。

松ちゃん、帰ってくるのかなあ

失踪した中年の心、よくわかんね。まあまあそう言わずに

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。