長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。漫画家になれるかも?というチャンス到来に一人きりで篭れる場所を探すが・・
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第70話「朝定はじめました」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部

雑誌に載った処女作は見るに耐えなかったが

なん夜 完徹したかわからないが、とにかく入稿した私は、すっかり馴染みになったラーメン屋で掲載誌を見つけ、手にとった。

印刷されてみると、我ながらあまりの出来の悪さに思わず顔が赤くなる。よくこれで、食っていこうと思えたものだ。

しかし、私を買ってくれている女編集者とは、次回作の話もしてしまっている。どんなに私が恥じらおうとも、事態は前に進んでいるのだ。そしてそれは決して悪いことではないはずだった。

待ち人帰らず?

リナちゃんよォ、大将はいないのかよ?とすっかり常連となったオジサンが言う。
わたしは待てど暮らせど戻らない松ちゃんをただ待つのはやめて、朝定食を始めることにした。道具はソノミと一緒に買い付け、手探りで始めたら案外評判がいい。手応えを感じ始めていたところだった。
「そうなんですよォ、みつけたら帰るように言って下さいョ」

その時、聞き覚えのあるバイクの排気音が上がってくるのが聞こえた。

朝定食はじめました?

久しぶりにドヤに戻ってみようと決意した私は、坂を駆け登るとそこに無造作に置かれた椅子やテーブルに邪魔をされて面食らった。数人の男たちが座っている。

なんだなんだ?
私はSRを停めて、改装されたように見える我が家の様子を眺めた。すると、そこには“朝定食はじめました”という旗印がヒラヒラと私を誘っていた。

おいおい、勝手に何やってんだ?と腹が立ち始めた私だったが、同時に、オレB定食!と気軽にオーダーしたくなっている自分もいて、思わず笑い出しそうにもなった。

その時、喜色を浮かべて私に駆け寄ってくるリナとソノミの姿がみえた。待たせていたらしい。

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。