おれ、立石。ちょっとした小金持ちなんだけど悪い?愛車のヨタハチ(トヨタ・スポーツ800)をめいっぱい楽しめる道を見つけたと思ったら松ちゃんのドヤに辿り着いたんだ。そこにはバイク乗り達が妙に集まっていて、ソノミっていういい女までいるじゃないか。そそるねぇ〜
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第72話「まだ青ネギを植える」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部

松ちゃんのドヤに入り浸るヨタハチ乗りの立石

おれは立石。カネはあるから、あくせく働かなくてもクルマを飛ばして遊ぶだけの甲斐性はある。

最近は松ちゃんのドヤに入り浸る毎日さ。ドヤに向かう道はおれの愛車、ヨタハチ(トヨタ・スポーツ800)を飛ばすにゃちょうどいい、狭いがカーブの多いくねくね道が続くし、ドヤにはこれまたエロいソノミちゃんがいる。バイク乗りの溜まり場でもあるので(ソノミ自体バイク乗りだ)、おれもバイクの免許とろうと考えてるほどだ。

え?年甲斐もない?
何言ってんだ、イイ女を欲しがる気持ちに若いも若くないもあるもんか。青春はそう簡単におわんねぇんだよ!
幾つになっても男には必要なんだよ、スピードとセクシーさがよ。

その日もおれは、気持ちよくヨタハチを走らせながら、松ちゃんのドヤに向かっていた。すると、ほどなくして前方に旧型の(つまりBMWに買われる前の)ミニの四角いバックビューが見えてきた。

ちっ!とおれは舌打ちした。せっかく気分良く飛ばしているのに、遅い車に前を塞がれるのはたまらない。抜かそうにも道幅が狭いこの道じゃあ、なかなか思うようにいかないのだ。

前を塞ぐミニの速さに度肝を抜かれる

すると、突然前方のミニがスピードを上げた。
えっ⁉︎とおれは少し驚いたが、前を塞ぐだろうと思っていたクルマが少しでも速度を上げてくれるならそれに越したことはないってものだ。

ところが、さらに驚いたことに、このミニがめちゃくちゃ速い。手を抜いていたら、あっという間にぶっちぎられちまう。

クソッとおれはミニに追い縋ろうとギアを入れ替え、アクセルを踏み込んだ。

ミニを駆る男の正体は?

必死で追い縋ろうと努力したおれだったが、ミニはあっという間におれとヨタハチを引き離し、消えていった。

ウソだろ、とおれは夢をみている気分だった。おれのヨタハチをこんなに簡単にぶっちぎるなんて。相手は最新のGT-Rや911じゃない、排気量も年式もそう変わらないミニだぞ??

悪夢を見ているような気分で冷や汗をかきながら、おれは松ちゃんのドヤについた。するとそこにはミニから降り立ったドライバーと、ホットパンツ姿でエロい脚をむき出しにしたソノミが突っ立っているじゃないか。

あ?

しかも、驚いたことにそのドライバーは、おれや松ちゃんよりはるかに年上の、老人と言えるような男だった。

え?
え???
あなた、だれ??

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。