俺の愛車はちと古いバイクさ。カワサキのZ1-R。メーカー純正のカフェレーサーだ笑。
だけど革ジャンは新品だぜ。半年前に仕上がったばかりの、正真正銘新品ってやつさ。
月刊オートバイ2021年12月号 第87巻別冊付録RIDE 「Cool BlueS」(東本昌平先生作)
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

革ジャンは硬くて当然、徐々に体に馴染ませるものさ

半年前に仕上がったばかりの革ジャンにひさしぶりに袖を通す。いや、かってえ。
だけど旧車乗りにとっちゃ、この硬さが我が身を守る保険のようなもんさ。

俺の愛車はZ1-R。漢カワサキの代名詞みたいなバイクさ。四角くて武骨。カフェレーサーといえば聞こえはいいが、まあ女ウケはあんまり良くはねえかもな。だけど、コイツに乗りたがる野郎の数はめちゃくちゃ多い。
役に立ってるかどうかよくわからないミニカウルをはじめ、いたるところが角張ってやがる、まあとびきり男くさいマシンさ。

キレイにしてんなァ

ひとしきり愛車の走りを楽しんだ俺は、ちょいとひと休みをすることにした。すると、メットを外した俺の横に、なんと同じ色のZ1-Rがすり寄ってきやがった。

1977年に発売されたZ1-Rは、1015cc の空冷4発を乗せたビッグマシンだ。最高出力 90PSの最大トルク 8.7kg-mはいまの最新バイクに比べたら可愛いもんだが、発売当時は怪物そのものだった。
カスタムしてあるとはいえ、70年代の、同じ型のバイクに出くわすのは珍しいことだったんだろう、そいつは俺の隣に止まるとメットを外しながら話しかけてきたんだ。

「おお、キレイにしてんなァ」

そいつは俺よりはるか年上の初老の男だった

メットをとった男は、俺のじっちゃんくらいの年配だったが、歳の差を感じさせない距離感をとって俺に話しかけてきた。「なんかやたら高そうな革ジャンだな。俺のはボロボロだが、はじめはお前のと同じ黒だったんだぜ」

年季モンだ、と俺は言った。「ヨレ具合も迫力だな」

お、そうか?と男は少し嬉しそうに言いながら、パンパンと自分の革ジャンを叩いてみせた。

コレも買った時はよ、と男は今度はマシンの方を向きながら言った。「買った時は新車だったんだぜ!」

ハハッと俺は笑ったが、空模様が少し薄暗くなったことに気づいた。そのことに男も気づいたようだ、おっと、雲行きが怪しくなってきた、と言いながら再びヘルメットを被った。もう行くらしい。

「アドレス交換しようぜ」と俺は言った。

バイク乗りに年の差は関係ねえ。同じZ1-R乗りにゃなかなか出会えねえしさ。

すると男は、こう↓答えた。

じゃあな!と男は言葉を残して去っていった。俺は偶然のわずかな邂逅を噛み締めながらその背を見送った。

俺はZ1-R乗り。多分一生だろうさ

雨が近づいている。去っていった男の背中をいつまでもみている場合じゃない。帰ろう。
古いバイクは鉄の塊。いまどきのバイクと違って一雨浴びたらすぐ錆びちまう。革ジャン慣らすには雨に打たれるのは悪くはないが、手入れすりゃあいいとはいえ、バイクは錆びさせないようにした方がいいに決まってる。

間に合うかな?
まあ、濡れたらちゃんと拭くよ。俺は漢カワサキのZ1-R乗り。歳を取ってもきっと同じマシンをぶっ飛ばしてると思う。あのじっちゃんみたいにさ。

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。