離婚して、久しぶりに帰省してきたヒロミ。幼馴染のユウジとゼロハンで出かけた海は彼女の目にはどう映る?
オートバイ2022年1月号別冊付録(第88巻第1号)「BLUSTER」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

離婚後初の帰省で幼馴染とゼロハンツーリングに出たヒロミ

「ヒロミィーあんま飛ばすなよォ‼︎」
とようやく追いついてきたユウジがそう言った。「兄貴のRZ(50)だぜェ、こわすなよな」

わたしは「俺はよォ、ユウジとちがって安全運転なの!」と笑ってみせた。

まっすぐ顔出してくれてウレシかったんなら、その理由わからん?

わたしたちはヘルメットを脱いで、しばらく眼下に広がる海面を見つめた。
わたしにとっては、8年ぶりの故郷の海だ。

「まっすぐウチに顔出してくれたのウレシかった!」とユウジは言った。

わたしは少し黙ったまま間をおいて、ゆっくりと言った。「ユウジも知ってるしさ?離婚したんョ」

ちょっと重かったかな?
ユウジはわたしの言葉に少しの反応も見せずにただ海を見つめた。

気まずい沈黙に耐えかねたわたしは、ユウジの方に向きかえり、精いっぱいの笑い顔を見せて口を開いた。「俺と結婚するでしょ!」

するとユウジはわたしの言葉を軽く流すように「誰がぁ!」と言った。
「40男をからかうかーっ」とユウジはわたしに背を向けて吐き捨てるように言った。

40過ぎても独り身なのはわたしを待っていたからではないの?

精一杯の勇気を振り絞ったわたしの言葉は単なる軽口としてユウジに流され、わたしたちは帰路に着いた。
来た時と同じように、わたしはRZのアクセルを捻り、ユウジを軽々と後にした。

サングラスもゴーグルもない、ジェットヘルには容赦なく向かい風が入り込む。痛む両目からは自然に涙があふれてくる。わたしは右手の袖で涙を拭うとさらにRZを走らせた。

楠雅彦 | Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。