年間100本を超える映画・ドラマ(連続シリーズを含む)作品を消費することから、1/100の映画評と名づけた連載。
ディズニー、マーベル、スター・ウォーズなど最強コンテンツの独占配信をパワフルに展開するDisney+の、MCU系列のシリーズドラマ 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』をご紹介。
カネかかってることがよくわかる、凄い作品だ。

指パッチン後の世界観

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)、すなわち複数のマーベル・ヒーローが同一の世界観で描かれて、時間軸さえ合えば同時に存在しうること、および 黒幕たるヴィランはサノスという異星人で、宇宙には生命体が多すぎるので50%間引きを行おうと考える彼がそれを実現するのをなんとか防ごうと考えるヒーロー達が力を合わせていく(この集団、チームをアベンジャーズと呼ぶ)、というものだ。サノス自身はある意味良かれと思って 生命の間引きを行おうとしており、絶対悪というわけではない。彼には彼の正義がある。

そして、アベンジャーズ側からみればサノスの思惑は大虐殺であり阻止すべき悪業ということになる。

ちなみに、サノスがこの間引きを行う方法は、宇宙の理を司る6つのインフィニティ・ストーンをまず手に入れたうえで、指パッチンをする。その際に心の中で石の力をどう使うかを願うだけだ。

本作をはじめ、MCU系列の作品群の中で、サノス対アベンジャーズの激闘後の世界を描くものは、すべからくこの指パッチンに影響を受けており、指パッチンというキーワードによって左右される世界となっている。

ネタバレになってしまうが、アベンジャーズ対サノスの闘いは、一度はサノスが勝ち全宇宙の生命体の半分が消滅する→当然地球の人口も半分になる、そして再戦を実現したアベンジャーズがサノスを出し抜き、消滅させられた人々を復活させる。この間に5年くらいのタイムラグがあり、復活した人と消滅を免れた人では、同じ歳なのに発育が違う、という問題が発生する。

指パッチンでもリセットされなかった苦悩に立ち向かう男たちの姿

本作では、サノスに勝つことに成功したアベンジャーズのリーダー、キャプテン・アメリカことスティーブから、彼の象徴たる星条旗が描かれた盾を譲り受けた黒人ヒーロー ファルコンことサムと、スティーブの親友であり 悪の組織によって受けた洗脳から解放された 超人兵士ウィンター・ソルジャーことバッキーの2人を主役に据えた作品だ。

サムはスティーブからキャプテン・アメリカの象徴たる盾を受け取ったものの、キャプテンを継ぐことには躊躇いがある。黒人だからだ。
彼は、世界を救ったヒーロー集団アベンジャーズの1人でありながら、米国内に根強く残る黒人蔑視の視線から完全に逃れることができない。指パッチンによるグレート・リセットでも人間の意識をすべてクリアにすることができなかったのだ。

そして、バッキーもまた、洗脳が解けて、ヒーロー的行動をとれるようになったものの、ウィンター・ソルジャー時代に行った自身の非情な行為の犠牲者たちへの慚愧の想いから悪夢に悩まされ、苦しみ続けていた。

本作は、指パッチン後に生まれたさまざまな歪みに揺れる世界の中で、2人のヒーローが真の友情を育み、迷いを捨てるまでの逡巡をテーマとした作品である。

善悪の切り分けが難しくなった世界で、とにかく行動を選択する主人公達

前項で触れたように、本作は爽快なアクションドラマであるが、善悪の戦いを描いた単純な作品ではない。Disney作品に限らず、昨今の創作物の大半に同じことが言えると思うが、絶対悪や絶対善は存在せず、一般的に正義側と思われる陣営にも強いためらいがあるし、逆に悪事を為す側にはそれを躊躇わない靭さがあり信念があるが、彼らの行為を100%糾弾することは難しくなっている。

例えば、MCUのストーリーのベースとなっている、サノスの行為だが、全宇宙の生命を半分に間引こうとする、つまり全宇宙の生き物の半分を虐殺するということ自体は決して許されない悪行のように思える。が、その行為をすることによって、宇宙全体を救う、という目的を悪とは言い切れない。それに、サノス自身は自分の行為が残虐な悪事かもしれないと分かったうえで、敢えて自分がその罪を被ってでもやらなければならない、という使命感をもっている。これを悪魔の所業と考えるか、十字軍的な犠牲的行為と考えるか、判断はなかなかに難しいところだろう。

2020年代にあって、こうした複雑化した世界を生きる我々にとって、目の前に発生する問題への対処に真摯に取り組むほかなく、より巨大で複雑な世界の問題の解決策もその連続の先にしかない、そういうことかもしれない。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。