テレビ局を辞めて漫画家を目指す、初老?の松ちゃん。彼のドヤにはなぜか多くのバイク乗りが集まって何かと騒々しい。俺、ソウルスピードもその1人なんだが、俺には別の目的もあって‥
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第76話「裁きの長椅子」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

俺はソウルスピード。日本で一番速いゼファー乗りだ。まあ自称だがね。

え?好きなバイクを乗り回して生きていけるいいご身分だって?バカ言うない、俺だってちゃんと働いてるさ。
日中は整体師として真面目に働いてるんだぜ。まあ、走るマッサージ師と呼ばれるのは時間の問題かもな。

ゼファー乗りの心を鷲掴みにしたバイクとは?

その日、いつも通りに仕事を終えた俺は、手早く片づけをして、帰宅しようとゼファーに跨ったのさ。
帰り道に大きなバイク屋があるのは知ってたが、いつもは最新のバイクたちがデカいショーケースの中に鎮座していて、それなりに目は引くものの、それほど深くは興味を惹かれることはなかったんだ。

だが、この日は違った。
一台のどデカいバイクが、ちょっと寄ってけよとばかりに俺を誘うじゃないか。

ソイツは、俺の股ぐらで湯気を立て始めていた愛車さえも色褪せていえるほどの存在感を放つ、とにかくでっけぇバイクだった。

珍しく猫の手も借りたい?松ちゃん

ソウルスピードが新しい“美女”に心うばわれそうになっていた時、私は死ぬほど忙しい時間にてんてこまいだった。漫画原稿を持ち込んでいた雑誌社の編集から連絡があり、急遽30ページの穴があいたので(つまり誰か連載作家が原稿を落としてしまった?ので)代稿が欲しいとのことだったのだ。そこで私は前に描いた60ページものの原稿をリファインして30ページにして対応することにしたのだが、リミットは明朝の5時まで。ウチに集まるバイク乗りの若者たちの手を借りながら、私は必死で作業に取り掛かっていたのだった。

PCを使ったデジタル原稿なら作業するは早いのかも知れなかったが、私のそれは昔ながらの手描き。切り貼りで構成を変えるほかないわけで。もちろん足りないところは描き足さなければならない。
リナやソノミに比べて、どんくさいヒトシが色々やらかし余計な仕事を増やす。手伝ってもらっている身とすれば大人の対応をしたいところだが、切羽詰まっているときは、苛立ちを簡単には抑えられないのがつらいところだ。

「なんだよ、徹夜で手伝ってんのによォ!」失敗をしたのは自分なのに、ヒトシも苛立った不平を漏らす。お前が悪いんじゃないか、と私も怒号を漏らしかけるが、実のところあまりに追い込まれていてそれどころではないのだった。その時、表で聴いたことがないバイクの排気音が近づいてきた。

漫画原稿の仕上げの手伝い要員にさせられそう?

ゼファーからヤマハの至宝、VMAXに乗り換えて、ちょっと有頂天になっていた俺は、新しい相棒をみせびらかせようという気分もあったのかもしれない、松ちゃんのドヤにやってきた。

クリスマスにリナに告白したものの、うやむやにされ、そのまま誤魔化されて以来だったのだが、そんな気まずさをVMAXの存在感が押し潰してくれたのだろう。

どーも!と湧き立つ気分を抑え、あくまで軽い感じで乗りつけた俺を出迎えてくれたのは大学生のヒトシだったのだが、一瞬バイクに目を止めてくれたものの、彼は冷ややかな笑みを浮かべてメットをとった俺を見つめたのだった。

「なるほど、お前ほどタイミングの悪い奴はいねェな」

ん?どういうこと?

楠雅彦 | Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。住みたいぜ!