テレビ局を辞めて漫画家を目指す、初老?の松ちゃん。最近急に先行き開けてきたというか、編集者に気に入ってもらえた感があるんだよな‥
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第77話「春・幻坂の検礼」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

ベタ入れでおしまい⁉︎

毎週発刊している週刊誌ならば、原稿が落ちて穴埋めしなけりゃならないことはよくあることだ。そういう機会をチャンスに変えて、新人が入り込む隙となる。
新人というにゃだいぶ歳がかさんじゃいるが私にとってもそれは同じことなのだった。声をかけてもらえるうちが華、どんな無理をしようがノーという答えは持ち合わせないのが駆け出しの漫画家というやつなのだ。

漫画原稿を持ち込んでいた雑誌社の編集から連絡があり、急遽生まれた30ページの穴を埋めるのが私の使命だ。前に描いた60ページものの原稿をリファインして30ページにして対応しなけりゃならない。私はリナやソノミの手を借りながら、なんとか原稿を仕上げたのだった。

オッサンばかりがなぜモテる?

私にとっては何の関係もない(こともないのかもしれない)が、最近私のドヤでは何かと色恋話で騒々しいようだ。まぁ春、ということなのだろう。

この歳になって徹夜作業は結構堪える。肩腰は痛いわ とにかくやたら眠い。
だが、若いソノミには別の意味でダメージが残る夜だったようだ。

私はとにかく原稿を仕上げることに頭がいっぱいだったが、手伝ってくれるリナとソノミには経験値に違いがあって、若さゆえのセンスの良さかソノミは結構役に立ったが、やはりちょいちょい手伝いをしてくれていたリナは手際がいい。

だから私としては、ついついリナに頼ることが多くなるが、それがソノミには気に障っていたらしいのだった。

早くその気になってよ?

私、リナ。
アラサー女子だって恋をするのよ。
え?誰にって?決まってるじゃない、松ちゃんによ。歳の差?んーん、そんなの関係ない。魅力的な男は幾つになっても魅力的なものよ。女にとって、年齢なんて関係ないの。

実際、なんだか年若のソノミまで、最近松ちゃんに興味あるみたいだしさ。

でもね、漫画の手伝いしたり、朝食の店出したりと、最近松ちゃんとの距離が縮まってる気がするのよ、私 がんばってるしね。

まったく勝手にいろいろやりやがって。俺をなんだと思ってるんだ?

とは言ってもさぁ、別に調子に乗ってるワケじゃないのよ?
なんかソノミの視線が妙にキツいように感じるけど、夫婦気どりにふるまってるつもりはないのよ?
なんだけど、今日は松ちゃんが原稿届けに編集部に行ってる間にさ、隣の住人夫婦(隣といってもクルマで20分とからしいけど笑)が訪ねてきてさ、古民家を改装して飲食始めるから食器を50セット焼いてくれないか?とか言うから、引き受けちゃったのよ。

だって、松ちゃん、目標があった方が燃えるじゃん?

「なに、お願いって?」眠気もあるんだろうけど、何だか不機嫌な返しを受けて、ちょっと私怯んじゃった。

「プレートとカップ‥‥50セットで」少しおどおどした声になったかな。
そしたら松ちゃん、引き受けちゃったのかよ、と怒気を含んだ声。「できるわけないだろう」

ごめんなさい、でもきっとやってくれる。それが松ちゃんだもの‥

店を始めたり、窯入れの要らん仕事を受けちまったり迷惑なんだよ、まったく

だけど女のわがまま、きいてやるのが男と昭和生まれなら教育されてきてるしなあ。さて、あなたならどうする?

楠雅彦 | Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。住みたいぜ!