年間100本以上の映画やドラマを鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ観るべき または観なくてもいい?映画作品を紹介。
英国スパイの活躍を描く長寿シリーズ、007ことジェームズ・ボンドシリーズの第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』。
ダニエル・クレイグ版007はこれで見納め?

007シリーズを再定義したダニエル・クレイグ最終出演?

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』最新予告

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ボンド役に決まった当初は悪評・不人気極まりなかったダニエル・クレイグだが、シリーズが始まってしまえば 史上最高の007と言えるほどの高評価を得るまでになった。その彼がボンド役を卒業するとアナウンスされた本作では、ソ連や北朝鮮などとの国家間の暗闘ではなく 民間の犯罪組織スペクターとの長期にわたる死闘の決着が描かれている。
ダニエル版007では、一貫してこのスペクターとボンドたち英国スパイの戦いがテーマなのだが、昨今の性差ハラスメントなどへのケアのためか、女性にモテるがそれを利用するプレイボーイ的スパイという描き方は極力抑えられ、ダークでハードボイルドな作りになっていることが新しいといえば新しいかもしれない。

ポリコレを考えすぎ?

正直にいうと、僕はこのダニエル・クレイグ版007に出会うまで、あまりボンドシリーズが好きではなかった。アクションが軽くて、というか全体的に軽妙すぎて スパイ物の陰鬱感が乏しく、ハードボイルド的なテイストが好きな僕には合わなかったのだ(とは言っても恐らく 全シリーズを観ているし、その軽妙さがそもそもの魅力と考える人がいることも、もちろん受け入れる)。

ところがこのクレイグバージョンの007はなかなかにハードで、趣きが今までのシリーズとはだいぶ異なる。世界的にヒットを飛ばしたこともさることながら、能天気にセクハラしまくる陽気なプレイボーイとは明らかに異なる、比較的現実的なヒーロー像の描き出しに成功したように思う。女を愛し、利用するだけではなく 命懸けで護る。そのナイトぶりに、懸命さや真摯さが加わってより現代的な印象に仕上がっているように思える。

が、今回の作品では、現代的な仕上がりを期すばかりに、ちょっとオーバープレゼンスじゃないかな、と思わせる演出が多い気もする。例えば、本作では 長いこと任務を放棄して隠匿していたボンドの後釜の“007”として、黒人女性が配されているのだが、これはポリティカルコンプライアンスに迎合しすぎなようにみえた。もちろん女性を主人公に据えたアクション映画は他にもたくさんあるし、男性に負けない(むしろ凌駕する)身体能力を持つことは十二分にあり得るのだが、それまで年齢を含めてさまざまな高いハードルを設定してきたMI-6の“007”の称号を渡していいものか?と首を傾げたくなる。まして、物語終盤で彼女は自発的にボンドにこのナンバーを返上し、MI-6のリーダーであるM以下全員がそれをあっけなく認めてしまうのだ。

ボンドシリーズで初めての?

今回の作品でダニエル・クレイグは007を卒業すると言われている。まあ確かに彼ももう50代半ば(1968年3月2日生まれ)、激しいアクションは避けた方がいい年齢だ。
そして、本作では彼がもはやジェームス・ボンドとして再登場してはいけなくなる?ようなラストシーンが用意されている。僕の知っている限り、このような設定はシリーズ初めてではないか?と思うが、勘違いだろうか。

まあ、その設定によって本作の良し悪しが決まるほどのことはないのだが、結構意外なモノなので、それ自体を楽しみに本作を鑑賞するのもいいだろう。

ちなみに、クレイグ版ボンドの宿敵はシリーズ全般を通して変わらず、悪の組織スペクターなのだが、本作ではフレディ・マーキュリー役で世界を席巻したラミ・マレックがヴィランを演じている。とは言え、前評判ほどには特別感が乏しく、印象が薄い気がしたのだが、それは僕だけの感想だろうか?

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。