年間100本以上の映画やドラマを鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ観るべき または観なくてもいい?映画作品を紹介。
倒したはずの難敵ミステリオによって正体を暴露されてしまったスパイダーマンことピーター・パーカー。人々の記憶を消そうとドクター・ストレンジの魔術に頼るピーターだったが、その結果 多次元宇宙に存在したヴィランたちを呼び寄せてしまう‥‥。

マルチバースが全面に押し出された作品

スパイダーマンはマーベルコミックでは一、二位を争う人気者。マーベルの映画化版権はディズニーが抑えているが(例えばアイアンマンやキャプテン・アメリカなど)、このスパイダーマンはソニー・ピクチャーズが傘下にある。(X-MENシリーズは20世紀FOX。つまりいまやディズニー系となった)
しかし、アベンジャーズシリーズ(MCU路線)を観た方ならご存知のように、スパイダーマンは映画制作レーベルの垣根を越えて アイアンマンことトニー・スタークと仲が良い様子が描かれている。

この辺りの“大人の事情”は、あくまで裏話であるが、その事情を観客に素直に受け入れてもらうための方策なのか、現在マーベルが(そしてそのライバルであり、バットマンやスーパーマンを擁するDCコミック≒製作はワーナー・ブラザースも)夢中になっているのがマルチバースコンセプトだ。

多元宇宙(マルチバース)はすべての存在を含み、そこには、われわれが一貫して経験している歴史的な宇宙に加え、空間、時間、物質、およびエネルギーの全体と、そして、それらを記述する異なる物理法則および物理定数なども含まれる。この語は1895年にアメリカの哲学者で心理学者のウィリアム・ジェームズによって造られたが、異なる文脈においてである。多元宇宙が含むそれぞれの宇宙は、平行宇宙と呼ばれることもある。

つまり、我々が棲むこの世界と類似した世界が多重かつ同時に存在し、それを総じてマルチバースと呼ぶが、個々の世界にそれぞれヒーローやヴィランが存在するはずだから、設定や環境が異なるこれまでのマーベル作品のすべてはそれぞれのバースでの出来事だった、とするアイデアだ。

ドクター・ストレンジが試みたのは、ピーターがスパイダーマンであることを誰も知らない世界の実現だったが、本作では、スパイダーマンの正体がバレていない世界から さまざまなヴィランを引き寄せてしまうという設定だ。
その結果、本作では、過去に2度映画化されたスパイダーマンシリーズ(トビー・マグワイア主演シリーズと、アンドリュー・ガーフィールド主演シリーズ)からヴィランもヒーローも登場することになる。(この魔術とは関係ないのだろうが、デアデビルとその正体であるマードック弁護士もカメオ出演している!)

というわけで、本作は、新旧のスパイダーマンたちと、かつて登場したヴィランたちとの戦いがメインストーリーとなっているのである。

今後のアメコミ映画の趨勢は?

マーベルコミック映画化の集大成?的なアベンジャーズが終了し、その中核であったアイアンマンとキャプテン・アメリカが退陣した。(リメイクすれば良いとも言えるが、アイアンマン=ロバート・ダウニー・Jr.だったり、キャプテン=クリス・エヴァンスのイメージが色濃く残る現在、彼らの再登板なしには簡単には成り立つまい)
その結果、マーベルコミック映画の主軸を支えるのはスパイダーマンということにやはりなってしまうだろう。ソーやドクター・ストレンジがいくら頑張ってもやはり重みが違う。

さらに言えば、マーベルだけでなく、自社ブランドによる優良コンテンツや、スター・ウォーズ、FOX系など あまりに強力なIPを手に入れたディズニーは、Netflixとの競争に勝つために映画館配給よりネット配信(→Disney+)のほうにより力を入れているように見えるから、その配下にあるマーベルとしてはソニーの戦略に期待せずにはいられないだろう。

スパイダーマンとヴェノムの距離が近づいているのは確かだし、原作ではアベンジャーズに加わっているX-MENシリーズの動向も気になるし、新しい趣向でブレイクしたデッドプールの関わり方も期待せざるを得ない。マルチバースという、ある意味なんでもありの構想に手をつけたマーベルの次の手はどうなるのか。アメコミファンとしては、楽しみにするほかない、とこの世界ではいっておこう。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。