テレビ局を辞めて漫画家を目指す松ちゃんだったが、ご近所さんのレストラン開業の支援のために自家製の窯の補強にくれる日々‥
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第83話「天使の羽音」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

窯は自作できても燃やすもんがなけりゃよ

テレビ局の敏腕プロデューサーだったはずの私は、50も後半にして独りで生きていこうと心に決めて再出発したはずだった。だったのに、なぜかいま、他の誰かのためにクソ暑い中、死ぬほど働かされている。こいつはいったいなぜなんだ??

ちょいと人混みを避けて山奥?に暮らし始めたつもりがなぜか若い連中がたむろするようになり、あげく 朝食専門の食い物屋まで開いちまう始末だ。いや、ほんとに参ってるんだ。

加えて今度は、近所に越してきた若夫婦(近所と言っても僻地だから、すぐ横に見えるってわけじゃない)が開店準備しているレストランのために、コーヒーセット50組を用意してやる羽目になっちまった。窯で焼きゃすぐって言うが、材料の土だっているし、何より火を起こすのに薪がいるんだぜ?

と言うわけで、このクソ暑い中、薪を提供してくれそうな親切な人を探して歩いてる(バイクだけどな)ってわけさ。

薪⁉︎ あるよ!(ホント??)

窯を炊けるほどの薪を分けてくれる家などそうあるわけがない。
薪として焚べられるような木もそこらにたくさん生えてるわけじゃない。
私は必死にSRに跨り、近隣の家や倉庫、工場などを、薪を求めて探しまくったが、なかなか分けてくれる奇特な人に巡り会うことはできなかった。

だが、走り回って何件目だろうか、ついに私は幸運に当たることができた!

「薪?あるよ!」
髭面だが、私よりは遥かに若いだろうその主人の笑顔は、今まで見た中でもっとも神性に満ちた、慈愛を含んだそれだった。

私の顔にも、激しい疲労を覆い隠せるだけの喜色が浮かんでいたはずだ。

じゃあ一旦戻って、と私は踵を返そうとした。「クルマ持って来ます」

そのとき、神の如き主人は私にこう言った。「クルマってどこまでとりに行くの??どんだけ薪が必要なのよ?1束1,200円だヨ」

うーん、世知辛い‥

売り物か、うーん、まあそうだろうな。
キャンプに集う若者向けの商売ってことか。

そらそうだわな、いまどきプロでもないのに焼き物を窯で作ろうなんて酔狂な奴はそういないよな。

さて。あなたなら薪を買う?買わない?

ガス代の方が高くつきそうだしなぁ

楠雅彦 | Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。住みたいぜ!