WBO世界フライ級に続いて同団体 スーパーフライ級のタイトルも奪取した中谷潤人(なかたに じゅんと)。2023年5月20日にラスベガスで行われたWBO世界スーパーフライ級の空位王座決定戦で、強豪アンドリュー・マロニー(豪出身の32歳。双子兄のジェイソンは現WBO世界バンタム級王者)を破り王座についた。

多彩なパンチを駆使する24戦無敗の中谷

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身長170センチの中谷に対して165センチのマロニー。このクラスではかなりの長身となる中谷潤人だが、先にスーパーフライ級に上がってきたマロニーの体力や仕上がり具合は馬鹿にできない。
下馬評では日米問わず中谷勝利と見る向きが多かったが、マロニーの底力を警戒すべきという声も多い。同じボクサーファイター型ながら、長身の中谷はアウトボクシングをすべき、逆にマロニーは頭をつけてファイターよろしく距離を詰めて戦うべきという見方が当然のことながら一般的ではあった。

しかし、サウスポーの長身ボクサーながら中谷は離れれば速くしつこいジャブとワンツー、近づいても両腕からの巧みなアッパーやフックなど、多彩なパンチを誇る。短い距離でも速い連打を駆使して長いリーチを持て余すことがないし、打ち合いを避けない気の強さもある。
とかいえ、マロニーとしてはアウトボックスをするというのは選択肢に入らず、距離を詰めて打ち合いを挑むほかない。25歳の中谷に対して32歳のマロニーは確かにベテランではあるが、オーストラリアの男ならではの?荒々しいスタミナ勝負を挑むだけの気迫があるのだった。

試合展開→早い段階でのダウンシーン!短期決着と思われたが‥

下馬評どおり、中谷はまず長い距離からジャブをつくが、マロニーは被弾覚悟で突っ込み、距離を潰してくる。

正面突破を狙うマロニーに対して、距離があればジャブからの左ストレート、入り込まれればアッパーで突き放そうとする中谷。
2ラウンドではそのアッパーでマロニーがダウンして、これは早期KOか?と思わせたが、3ラウンドで中谷がバッティングにより出血したことで、多少の膠着状態となる。

幸いにして出血は大したことがなく視界を遮ることもないようだったが、ストップされるのではないか、という不安からか、中谷のスピードが鈍り、マロニーの接近を許すようになってしまうのだ。執拗なマロニーの動きにロープに詰められるシーンも増えた中谷の姿は、見ようによっては追い込まれているようにも映るだろう。

11ラウンドでは左でダウンを奪い12ラウンドでは絶妙なカウンターで劇的勝利を得た中谷

体力に任せて中谷を押し込んでは、左右のフックを放つマロニーに手を焼いているように見えた中谷。
気の強さが災いしてか、インファイトに付き合ってしまいがちなのだろうが、セコンドの指示は強みを活かしたアウトボクシングだ。試合終盤には中谷もその指示を受け入れてなるべく距離を取ろうと足を使い、接近戦を挑むマロニーも被弾のダメージからか、それともさすがに疲れてきたのか、なかなか距離を詰めることができない。11ラウンド、豪を煮やしたのか突っ込みが粗くなってバランスを崩しかけたマロニーの顔面を強かに中谷の左がたたき、マロニーが尻餅をつく。終盤のダウンにここぞと考えた中谷がラッシュをかけるがマロニーもタフさと巧みさを見せつけ、猛攻を凌ぐ。

結局11ラウンドでの決着を諦めた中谷だったが、さしものマロニーもダメージと疲れが蓄積されてきていた。最終ラウンドに、再び不用意に突っ込んだマロニーは、中谷の左フックをカウンターで顔面に受け、そのまま意識を失って崩れ落ちた。
レフェリーはカウントもせずKOを宣言し、即刻試合を止めたのだった。

全世界に実力とスター性をアピールした中谷

凄まじいKOだった。
井上尚弥に続いて世界進出をしたい中谷潤人からすれば、世界中のボクシングファンにアピールできる華々しい決着を望んでいただろうが、このうえない結果を出したと言えるだろう。

試合自体もスリリングで面白いものだったし(実際には中谷がマロニーにダメージを与え続けたラウンド進行だったとしでも、傍目には接近戦を挑むマロニーが善戦していると見えたろう)、最後のノックダウンはあまりに劇的だった。

これは判定かな、でも2回もダウン奪ってるし、これはこれでいいかなと見ているだれもが思い始めた最終ラウンドだったろうと思う。
しかし、中谷はここぞの一撃を この上ないタイミングでマロニーに当ててみせたのだ。マロニーの右を避けつつ繰り出した左の強打が顔面を強かに捉え、それまでとにかくしつこくタフさを見せていた相手の意識を断ち切った。
このノックダウンは、年間ベストKOに選出されてもおかしくないレベルで、世界中のファンの度肝を抜いたはずだ。
ペイパービューの普及のおかげで、軽量級の選手の試合でも稼げるビッグファイトが生まれてきたし、井上尚弥選手の台頭でアジア圏の選手にも良い才能が存在することが認められてきた。そして今回の中谷の試合は、それらの価値を認めさせる証左となったはずだ。

これで中谷に、次戦以降 大金が動く試合に絡めるチャンスが訪れることは間違いないだろう。そのチャンスを呼び込み、モノにした最高のKO劇を彼は見せつけてくれたし、マロニーの頑張りがそのお膳立てをしてくれたのは間違いない事実だと考える。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。