日本酒のラベルに書いてある「甘口」「辛口」といった言葉。甘いのは苦手だから「辛口」でお願いします!なんて注文して出てきた酒が甘い……なんてことは往々にしてあるもの。一体これはどういうことなのか。ここでは我々を惑わす「辛口・甘口」の謎について解説する。
※取材協力:日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)

辛口と甘口の違い

「辛口の日本酒にはこんな料理が合うよ」、「この料理には甘口の方がいいね」といった、日本酒の味わいを辛口・甘口で評する人は多い。ただ、辛口・甘口の表記に疑問を持ったことはないだろうか?

例えば、ラベルのない辛口の日本酒を用意したとする。それを10人に試飲してもらい、辛口・甘口を判断してもらったとしたらどうなるか?

おそらく答えは半々、いや甘口の方に偏るかもしれない。それもそのはず、そもそも「日本酒は甘いお酒」なのだ。

では辛口・甘口とはどういった意味なのか?

日本酒には『日本酒度』という辛口・甘口を示す項目がある。日本酒度とは、日本酒に含まれる糖分を示したもので、ラベルでは+2.5や-4といった数値で表記される。

0を基準としプラスになるほど糖分は少なくなり『辛口』、マイナスになるほど糖分は多めで『甘口』という表記になる。これが辛口・甘口表記の正体である。これだけ見れば、なんら間違ってないように見えるかもしれない。

しかし問題は、日本酒度の数値だけで判断されている点にある。

本当の甘さ・辛さは糖分量だけで判断できない

我々が味を判断するとき、糖度だけで決めることはない。酸味の強弱や、コク、口に運ぶ瞬間に感じる匂いといったさまざまなファクターから、辛い・甘いを判断するのが普通だ。

日本酒は、乳酸、コハク酸、リンゴ酸といった酸味を感じる要素である「酸度」、量が多いほど濃醇に、少ないほど淡麗に感じる「アミノ酸」といった旨味成分を多く含んでいる。

だから、フルーティな薫酒(吟醸酒など)や旨味成分の多い醇酒(純米酒など)は、糖度の少ない辛口表記でも甘く感じたりするわけだ。

つまり、日本酒の辛口・甘口は味わいを線引きする基準ではないというわけである。

テイスティングで自分好みの日本酒を探してみる

辛口か甘口か、というのはあくまでも個人の主観。カレーライスのように明確に味を分ける基準ではない。では、日本酒を探すときに何を基準に見ればいいのか?

人の意見に左右されず、自分好みの日本酒を見つけたいのなら、テイスティングをしてみるのがもっとも近道といえるだろう。

テイスティングとは、日本語でいう唎酒(ききざけ)のこと。視覚、嗅覚、味覚を使い、日本酒の味わいを多角的にチェックする方法である。

テイスティングの前の注意点

  • 万全の体調で臨むこと
    • 風邪や二日酔いの状態では的確に香味を把握することはできない。
  • タバコや匂いの強いものの摂取は厳禁
    • 化粧品や香水などの使用もできるだけ控えること
  • 水を飲みながら行うこと
    • 酔って感覚が鈍らないように注意。※プロは酔わないよう必ず吐き出す
  • 室温は20℃前後。日本酒の温度は15〜18℃がベスト
    • 上記条件がもっとも香味の特徴が分かりやすい

ちなみに、テイスティング時の器は一般的には底に青い二重丸の入った蛇の目の唎猪口(ききちょこ)がよく使われるが、香りを重視したい場合は湾曲製の高いワイングラスがオススメ。

テイスティグでよく使われる唎猪口(ききちょこ)

ワイングラスは香気を引き出しやすい

外観・香り・味わい──3つの項目で日本酒をチェック

日本酒のテイスティングは外観(色)、香り、味わいの3項目をチェックする。ここでは日本酒を品評するわけではなく、自分の好みに合っているのかを探すだけなのでリラックスして各項目をチェックしていただきたい。

外観(色)

液体の状態を見やすいように、日本酒を入れた透明のグラスの下には白い紙や布を引いておこう。慣れてくれば外観の特徴から熟成度合や濾過度合なども分かるようになる。

ここで見るのは液体の色。無色透明なのか淡く色づいているのか、はたまた黄色なのか、茶色っぽいのか、琥珀色なのか……熟酒になるほどその色は濃くなっていく傾向だ。

琥珀色の熟酒

香り

香りを確認する際にグラスを回して空気を取り込んだり、グラス内の温度を上げるなどして揮発性を高めると香りを判別しやすくなる。この手法を“スワリング”という。

ちなみにスワリングをするのは、香りをチェックするテイスティングのときだけ。飲んでいるときに器をグルグル回すのは無粋ともいえる行動なので慎みたい。

さて、実際に香りを嗅いだら、甘味を思わせる香りなのか、酸味を思わせる香りなのかを判断してみる。具体的にどんな食品に近いのかを書き出してみるのもよい。

「酵母に由来するフルーツや花のような吟醸香」、「原料の米や米麹がダイレクトに伝わってくる原料香」、「時間の経過とともに生じる熟成香」といった評価を自分なりにつけてみよう。

日本酒の香りの基本としては「酵母に由来するフルーツや花のような吟醸香」、「米や米麹に由来する原料香」、「時間の経過とともに生じる熟成香」に大別できることも覚えておくと判断がつきやすいだろう。

吟醸香例(主に薫種)原料香例(主に醇酒)熟成香例(主に熟酒)
ふさわしい形容詞・華やかな香り
・爽やか、清涼な香り
・ふくよかな香り
・まろやかな香り
・重厚で複雑な香り
・凝縮感の高い香り
甘味・梨やリンゴなどの果実
・梅や金木犀などの花
・綿あめなどの砂糖・黒糖や蜂蜜などの糖蜜
酸味・レモンやライムなどの果実・ヨーグルトなどの乳製品・ドライフルーツ類
苦味・渋み・クレソンや瓜などの菜類
・ミントやバジルなどの香草
・ヒノキや杉などの木
・アーモンドなどのナッツ
旨味・白米や餅などの穀物・味噌や醤油などの調味料
・シメジや椎茸などのキノコ
その他・バターなどの乳製品・シナモンなどのスパイス
・紅茶などの茶葉
・松やにや蝋燭などの油脂
・ヨード香やロースト香など
香りの表現例

味わい

口に含む量はティースプーン1杯程度。まずは飲み口としてやわらかい、滑らか、きめ細かい、まったりしているなど食感をチェック。

次いで舌の上に乗せて日本酒の一番の特徴である旨み成分が多いか少ないかを判断する。成分が多ければ濃醇、少なければ淡麗、といった表現になる。

そこから甘味、酸味、苦味などを感じるかを判断しよう。甘口と辛口の判定は、甘み成分の量の多さもさることながら、最後に残るアルコールのピリピリとした刺激の強弱、苦味や酸味なども入れ、統合的にチェックする。

最後に鼻から息を抜いて、含み香(アフターフレーバー)をチェックしよう。

好みの日本酒を見つけるために。

外観・香り・味わいという3つをチェックしたら、それぞれ自分の分かりやすいように書き出してみよう。これを繰り返すことで、テイスティング能力も飛躍的に向上するはず。

自分で日本酒の味わいをチェックできるようになれば、好みの日本酒と出会うチャンスが増えるばかりか、説得力を持って人に美味しい日本酒を薦めることができるようにもなるはず。

味の表現方法は人それぞれ、他者の意見に左右されず(意見交換はあり!)自分にぴったりの日本酒をこの機会にぜひ探してみてほしい。

日本酒に関する記事はこちらから